あみのさん
4 メリーゴーランド
小さい会社なので、亜美乃の話す声が聞こえる。もう入社して1ヶ月以上過ぎた。仕事も無難にこなすようになった。三郎は仕事をしながらも、昼休み時間に亜美乃に時々かかってくる私用の電話の内容も自然に耳に入ってきた。
(ああ、今日は誰かと会うのだな)という日はパチンコ店で時間をつぶして過ごした。
その電話の相手に気になる人物がいる。亜美乃は敬語を使ってはいるが、時々親しさが顔をのぞかせる。多分男だろう。三郎は少し嫉妬を感じながら聞き耳をたてる。そういえば、以前ちらっと話に出てきた人物かもしれなかった。三郎は亜美乃との将来、どういう風にしたいのかも考えてもいなかった。このままでいいのだろうかとも考えてみた。
亜美乃はまだ多分男であろう人物と親しそうに電話で話している。
「えっ、できたけどね。……ぜんぜん、うん、ちょっと……たよりないね」
亜美乃がいま電話で喋っていることは、自分のことかもしれないと三郎は思った。相手はかなり年上の、少し余裕をもって亜美乃を扱うことのできるやつという気がした。以前ちらっと話に出てきた人物かもしれない。父親のように付き合っているという。なんでもその家に行って奥様にも逢ったこともあるという。三郎はそれで安心していたのだが、実際は危ない関係かもしれない。三郎は心に小さな黒い固まりができたような気がした。
かといって嫌いになったわけではなく、時間があれば二人で繁華街を歩いていた。一つだけはっきりしてきたのは、積極的であると思える亜美乃だが、実際はリードする女性ではなくリードされたがる女性ではないかということである。それで三郎は決心をして自分からどこかに行こうと誘うことを心がけた。