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耽美主義の挑戦

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 しかし、本心はやはり好きになることはできない。彼女になってしまった自分も許せないし、好きでもない相手が彼氏だということも許せないのだ。
 それは、彼女が、
「耽美主義」
 という考え方であるということが大きく影響している。
 耽美主義である彼女は、すべてにおいて、
「美しくなければ自分ではない」
 と思っていた。
「好きでもない相手の彼女に成り下がり、さらに、なってしまった以上、そこから逃れられる状態になっても、大義名分がなければ、美しさに反することになる」
 と考えていた。
 あくまでも、耽美主義がゆえに、別れられないと思っていたのに、別れるきっかけがあるのに、美学のために別れられないという矛盾には、閉口するばかりだった。
 キリシタンである細川ガラシャが、自殺は許されないということで、部下に自分を殺させたという、大きな矛盾を自分も抱いているかのような気分がしたことだろう。
 そんなことを考えていると、
「もう、舞鶴に死んでもらうしかない」
 と考えた。
 自分の恋敵だと思われている敦子の存在を知り、舞鶴が、きっと自分から離れて敦子の方に行ってしまうという、妄想に駆られてしまうと、耽美主義を至上主義だと思っているさくら子には、耐えられるものではなかった。
 こうなると、ますます、舞鶴には死んでもらうしかなくなったのだ。
 それで、計画を練った。新聞配達員を証人として利用すること、アリバイを曖昧な形で作ることで、自分のアリバイをうまく仕立てようとしたこと。そして、そのアリバイのっもう一人の対象に敦子をターゲットにしたことは、耽美主義をスローガンにしているさくら子らしいではないか。
 さくら子は、完全に敦子をライバル視して、彼女に挑戦状を叩きつけた気がしていたのだろう。
 そのうちに、自分が警察に敗れて犯人ということになっても、一向にかまわないと思っていた。自分の最後は自分で肩をつけるというくらいにまで考えていたのであった。
 さくら子は、警察の追及をまるで分かっていたかのように、逃亡を試みた。
 その時点で、深沢刑事の推理は完成していたので、警察の勝ちであったが、さくら子は一体どこに行ったというのだろう?
 さくら子がいなくなってから、一週間後、樹海と目された場所が、殺害現場から少し離れたところにあったのだが、突如その入り口のところで、きれいな花に囲まれる形で、女が、服毒自殺をしていた。それがさくら子だったのである。
 彼女は敵わぬとみて、自殺を試みた。
 まるで、
「耽美主義者の最期」
 を、最高の形で演出していたのだ。
 その場所は、かつて、被害者の舞鶴と言ったことがある場所だったという。付き合い始めた時、冗談で、
「いがみ合っていた二人がこんなに仲良くなったんだから、もし仲たがいが起これば、ここで仲直りできればいいね」
 と言っていた場所だったというのを知っているのは、敦子だったというのは皮肉なことか。
 敦子の口からこのことを警察に言わせるというのが、さくら子らしいではないか。
 さくら子の死体を見て、
「こんな恐ろしい樹海に、私は巻き込まれそうになっていたのね?」
 と、深いため息をついた敦子だった……。
 被害者の舞鶴が、自分が離婚をした時に、一人がいいという結論を見出したことを、果たして、二人の女は分かっていたのだろうか? 実に疑問であったのだ。

                 (  完  )
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作品名:耽美主義の挑戦 作家名:森本晃次