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ずさんで曖昧な事件

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 確かに、カリスマ的な人が死んだりすると、後追い自殺が起こると言われているが、それも、自殺した人が菌を放っているのかも知れない。
 だが、実際に死ぬことができる人というのは、最初から、自殺すると決められていた人だけではないだろうか。そうではない人は、何度も試みるが、結局できなくて、
「手首にリスケの跡が、くっきりと残ってしまっているのだ」
 ということになるのであろう。
 自殺する人を、
「いいとか悪いとか」
 というようなことを言えるわけもない。
 なぜなら、
「生き残っている人間には、結局自殺をしていった人の気持ちが分かるはずなどないからだ」
 ということが言えるのではないだろうか。
 そうなると、やはり、自殺菌なるものが存在していて、自殺ができた人と、
「あの世で出会えるかも知れない」
 と考える。
 ただし、それがあの世の、どこなのか? それが分からないのではないだろうか?
 宗教によっては、
「自殺は、自分を殺すということで、殺人に変わりはないので、人を殺めたのだから、地獄にしかいけない」
 という考え方がある。
 あの世に、情状酌量というものはないのだろうか?
 もしないのだとすれば、自分を殺すことになる人物は浮かばれない。
 この殺人未遂事件は結局、お宮入りとなった。
 怪しい人物には皆動機はあっても、発見者になったりしている。
 そのうちに、お宮入りになった事件が、本当の殺人事件となって現れたのだ。
 しかも、背景はまったく同じような感じであった。
 マンションの部屋で、藤原が殺されるのを、姉川が見つけ、そして、階下から定岡が見た。
 二人はデジャブを見たかのような気持ちだったが、何かが違っていた。
 部屋に入ってみると、一人の女性が死んでいた。どうやら、自殺のようである。少なくとも藤原に殺されたわけではない。藤原の身体に刺さっているナイフに指紋はついていなかった。そして、死んでいる女性のナイフには、本人の指紋のみ。
 一見、犯人が二人を殺したのかと思われたが、女の胸から遺書が見つかった。
「景子、今行く」
 という言葉が書かれていて、以前捜査をした刑事が、景子というのが、藤原に騙されて自殺した女だということを知っていたのだ。
「彼女が藤原を殺して自分を刺したというのなら分かるが、手袋もしていない彼女に、指紋をつけずに殺人を行って、自殺をした凶器に指紋をつけないなど不可能だ」
 ということであった。
 彼は景子を愛していた。しかし、それがかなわなかったことで、市子と白河が憎かった。特に白河は憎かった。本当は、白河も殺そうと思っていたのだが、白河は、なんと、すでに死んでいたのだ。
 白河は、自分のマンションの騒音に結構悩まされていた。そのノイローゼからではないかと思われた。
 違う理由での自殺だった。藤原を殺そうとして殺せなかった自分のいくじなさが、本当に情けなく感じたのだろう。
 遺書はあったので、犯人はそのままにしておいて、最後に自分の命を絶つつもりだった。
 彼は遺書を藤原のマンションの屋上に置いて、そこから飛び降りた。
 その遺書には、
「景子、今行く」
 と、市子と同じ文句が書かれていた。
 もちろん、遺書を示し合わせるわけもない。お互いに気持ちは同じだったのだろう。
 それとも、あの世から、景子が導いたというのだろうか?
 屋上からまるで、スローモーションかコマ送りのように、落下する肉体が、地面にぶち当たって、砕けるのを誰が見たというのか。
 そこに転がっているのは、肉片でしかなかった。その人物は、芦沢だったのだ。
 この事件が最初から、
「ずさんで、計画性のない事件だった」
 と言われるゆえんなのだろう……。
 ただし、最後には二人の景子を愛していた男性二人によって成し遂げられた犯罪だというのは、皮肉なことではなかっただろうか?

                 (  完  )
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作品名:ずさんで曖昧な事件 作家名:森本晃次