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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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元禄浪漫紀行(51)~(57)【完結】

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夢の光景を思い返し、彼女の名前を呼んだけど、俺は今ある生活のため、布団を手で擦り、感触を確かめていた。


二階にある自室から階下に降りていくと、父が朝食を作っていた。

「おはよう」

父は振り向かず、鍋の中を見つめている。

「おはよう」

食事をする気にはなれなかったけど、俺はなんとか食べ物を口へ運ぶ。その日の朝はカレーだったのに、嬉しい気持ちは湧いてこなかった。



食後、父は「出かけてくる」と言って居なくなり、俺はぼけっとキッチンで煙草を吸っていた。

“江戸では刻みを煙管で吸うから、手数がかかったよなあ…”

そう考えていると、おかねが煙管をくわえ、火鉢へ屈み込む様が目の前に浮かんでくる。でも、彼女はもう居ない。よしや生きていたとしても、絶対に会えない。

俺は母も妻も亡くし、子供達にも会えなくなってしまった。

“みんな…あのお香のせいだ…”

俺はすべての始まりを思い起こし、良い香りがしたはずの粉の香が憎らしくて堪らなくなった。それから俺は、思い出の中を旅した。


おかねに拾われ、「善さん」に似ていた俺は気に入られて下男として働き、一緒に病を乗り越え…おかねが吹っ切れてからは恋仲となり、夫婦となって…とそこまで考えた時、俺は忘れていた事を思い出したのに気づいた。

“そういえば、「善さん」とは、何者だったのだろう?俺にそっくりとおかねは言っていたけど…”

もう何を考えても何もこの手には還らないのに、もしや思い出を確かに出来やしないかと、俺は帰ってきた父にこう言った。


「ねえ、うちって家系図とかなかったっけ」