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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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元禄浪漫紀行(51)~(57)【完結】【改訂】

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病室に入った時、父は様々な計測器類に取り囲まれ、俺が近づいていっても、もう意識もないようだった。

でも、父は必死に息をしようと喘いでいて、ぼんやりと開けた目は、涙に潤んでいる。それはもしかしたら、苦しみのためだったかもしれない。俺は父に声を掛けた。

「父さん、羊羹買ってきたよ、父さん…」

父は返事をせず、何も見えていないのか、俺の方も向かない。もうすべてが知れているのに、俺達生きている人間には、引き留めるしか道がない。

“いくら引き留めたってもう無駄なんだ…父さんは死んでしまうんだ…”

「父さん…」

俺は最後に一度「父さん」と呼んでから、ただ父の傍で、父を見守っていた。父が苦しむ様子は胸に堪えたけど、それでもずっと父を見詰めていた。父が安心して旅立てるように。

ピー、という音がたくさんの計器類から鳴った時、俺はベッドにばたりと顔を伏せ、その場で少し泣いた。




俺は父の葬儀で喪主を務めたけど、親戚縁者からは白い目で見られ、でも誰も真相を聴こうとはしなかった。みんな、そんな余裕はなかったのだ。

母も優しい人だったけど、父も、寡黙ながらに実直で、努力家で、みんなから慕われていた。

そんな父の死を皆悼み、涙を流して別れを惜しんだ。

そうして俺は父の骨を拾い、家に帰ったのだ。



俺は、父の死に寄り添う事で、少しの間は“自分は現代に生きているんだ”と思えた。

“俺が現代を離れなければ、父や母をもっと支えられたかもしれない。俺は何をしていたんだ!”

“それでも、彼女にまた会えるなら、俺はなんだってするだろう…”

矛盾した時の整理を付けられないまま、俺は、なんとか頭だけは現代にかじりつこうとした。でも、そんな無理はさして続けられなかった。


父についての事、母との思い出、おかねと寄り添った日々…それらが頭の中で交差する時、俺はどうしても、それらの時間が重なってくれない事に苦しめられ、仕事に行くのも苦痛だった。


四十九日の法要も過ぎてしまうと、頭の中にだけ持っていた現実感は薄れていき、俺はだんだん、時の流れさえ曖昧に感じるようになった。