「研修医」の皆さん、ごくろうさまです
研修医の時代は、学識や人格より技術のほうが重要だ。
技術が未熟だと患者さんから信用されない。
不器用な私はとくに信用されなかった。
それでも、看護師さんや仲間に励まされてなんとか過ごしていたが、教授回診は恐ろしかった。
当時、大学病院では、教授の権力は絶対だった。
「医局員」と称する部下が五〇人ぐらいいたが、誰一人教授にたてつく医者はいなかった。全員が陰で悪口を言っていた。
研修医は医局の中では「奴隷」である。
金属バットで殴られたことはないが、教授の機嫌が悪い時は、回診中に、「温度板」(毎日の体温などバイタルサインを記録した、ボール紙の三倍ぐらい厚い紙)が飛んできた。
獣医の先生から聞いたが、犬には「激怒症候群」という病気があるそうだ。犬から感染したのではないだろうか。
風の便りにきくと、元気な研修医がいた大学病院もあったようだ。
その話をして、すこし爽やかな気持ちになりたい。
作品名:「研修医」の皆さん、ごくろうさまです 作家名:ヤブ田玄白