「研修医」の皆さん、ごくろうさまです
患者さんはベテランの医者に診てもらいたいと思うが、ベテランは忙しいし、たいてい疲れているものだ。
そこで、若い医者が、採血したり注射したりする。
患者さんは不安に思うかもしれないが、国家試験に合格した医者だ。
ニセ医者ではないから、信用してもらいたい。
私もニセ医者と思われたことはないが、研修医のころは、ずいぶん恥をかいた。(今もそれほどかわらないが)
受持ちの患者さんの中に、何べん針を刺しても血がとれない人がいた。
研修医にとって、血がとれないのは恥ずかしいことである。
その男の血管は確かに細かったが、愛想もよくて、特別変わった人ではなかった。
カルテの職業欄を見ると、「金融関係」と書かれていた。
「消費者金融」の幹部だったらしい。
ベテランのナースが私を慰めてくれた。
「あの人ね、血も涙もない人なのよ」
作品名:「研修医」の皆さん、ごくろうさまです 作家名:ヤブ田玄白