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歴史の傀儡真実

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「そういえば、この南部蝦夷地にある国家には、何か宗教はあるんですか?」
 と聞くと、
「我々にも当たり前に宗教を信じる人はいるようだ。ただ、国を挙げての宗教というものはなく、自由に宗教の信仰を許しています。今はなかなか、そういう支配階級があるところはないだからね。でも、勢力として強いのは、キリスト教でしょうか? 北部蝦夷地では、ソロアスター教というのが、国教となっているようだ」
 というのを聞いて、
「そのゾロアスター教というのは、何なんですか?」
 と聞いた。
「ゾロアスター教というのは、何やら火を祀る神様だということで、昔、中央アジアに存在した、ペルシャという国で盛んに活動していたということなんだ」
「やはり、それは、ロシアの影響でしょうか?」
「そうだね、ロシアという国は国土が広いだけに、国内でもいろいろな民族や宗派が存在している。その中の一部のゾロアスター教徒が、ロシアから、この北部蝦夷地に来たようなんだ」
 というのを聞いて、少し不思議に感じた重光は、
「えっ? ということは、こちらに来ているロシア民族は、国の方針とは決して同じではないということですか?」
 と聞いた。
「そうだと認識している。実は、ここにきているイギリスの連中もそういうところがある。しかし、本土に来ているスペイン人や、ポルトガル人は、キリスト教布教を、国家利益としての、植民地化をあからさまに目論んでいるので、彼らは、「国家の手先だ」だといってもいいのではないだろうか?」
 というのだった。
「じゃあ、国家ぐるみの傀儡国家ではないということになるんですね? あくまでも、個人というか、国家とは違う集団が、暗躍することで、それぞれの蝦夷地を占領しているということになるんですか?」
 と重光が聞くと、
「表面上はそういうことだな。だけど、彼らには、それなりに理念があって、自分たちの主張と、この国の国益との利害が一致しているということもあるんだ。だから、占領されているという形になっているのは、体制上仕方のないことではあるが、占領されているわけでも、ましてや、植民地などということでは決してないんだよ」
 と、信定は言った。
「でも、傀儡国家なんでしょう?」
「ああ、表面上はね。でも、そう思わせておく方がいいということだってあるんだよ。それが外交面で役に立つことがある」
 という信定の言葉に、まだハッキリと納得がいかない、重光であった。

                 大団円

 この、南部蝦夷国というのは、傀儡国家だと思っていたが、実際には違うという。しかも、そう思わせることが外交面でもいいのだというのだが、それはどういう意味なのだろうか?
 これも、大日本帝国における戦術であるが、外交面において、まわりへの影響を鑑みて、「普通であれば、こんなことはしない」
 というようなことを、お互いにやった戦争もあった。
 これこそ、外交面において、自国が不利にならないように、というか、不利になってしまうと、
「戦争継続が困難になり、自国の滅亡につながってしまう」
 ということが考えられるからであった。
 大東亜戦争というのを、閣議決定した時、
「この戦争は、ここまで遡る」
 と言われた事件のことであり、それは、
「シナ事変」
 であった。
 昭和十二年の七月七日の、北京郊外で発生した日本軍と中国軍の戦闘状態である、
「盧溝橋事件」
 に端を発したのが、
「シナ事変」
 だった。
 ただ、正確にはこの盧溝橋事件は、現地でいったん和平条約が結ばれたことで、終結したことになっているので、この事件を、シナ事変の始まりとして捉えるのはおかしいという意見もある。
 だが、その後に起こった、
「郎坊事件」、
「通州事件」
 など、中国側からの挑発であったり、通州事件に至っては、中国側による、言語を絶するような虐殺事件を引き起こしたのだから、シナ事変というのは、明らかに、
「中国側が仕掛けてきた戦争」
 といえるだろう。
 しかし、この戦争は、実質的には、戦争とは言わない。なぜなら、
「どちらの国からも、宣戦布告をしていない」
 ということからであった。
 宣戦布告を行ってこその、戦争状態ということから、昭和十二年から、昭和十六年の末までの期間は、間違いなく戦争ではなく、事変なのだった。
 ではなぜ、宣戦布告をしなかったのか?
 ということであるが、理由としては、
「宣戦布告をしてしまうと、第三国は体制を決めなければいけない」
 ということになるからだ。
 特に中国側は、戦争を行うのに、イギリスやアメリカから、支援を受けていた。日本も、戦争継続のためには、アメリカなどからの物資の輸入に頼っているところがあった。
 しかし、宣戦布告をしてしまうと、アメリカが立場を決めなければいけない。それは、どちらかに加勢をするという立場か、中立という立場かということになるが、中立にしてしまうと、アメリカから、支援をしてもらうことができなくなってしまう中国には、戦争継続すら難しくなってしまう。日本も、輸入が難しくなるという意味で、どちらも、宣戦布告には否定的だった。
 そのため、宣戦布告なき戦いが続くことになったが、日本が対英米戦に宣戦布告をしたことで、アメリカから支援をしてもらっていた中国に、宣戦布告をしない理由がなくなり、連合国側について、日本に宣戦布告をした。
 その時点で、シナ事変から、戦争へと変わった。だから日本でも、
「昭和十二年にまでさかのぼって、今回の戦争を、大東亜戦争と呼ぶ」
 という閣議決定になったのである。
 このように体制を決めることで、外交面や、外国とのやり取りが制限されるようになるのはまずいわけで、表向きと、実際とでは違ってしまうのは、ある意味当たり前のことではないだろうか。
 中世のこの時代に、そこまで世界としても、国家体制が国際的にどのような影響を与えるかということまで重要視していない時代であっても、蝦夷国では、そこまで考えて傀儡を演じているのだった。
 イギリスはイギリスで、きっと、国内的にはスペインを意識して、対外的には、ロシアをバックに意識して、蝦夷国の国家体制を築いていることだろう。
 そうなると、問題は、織田信定という男のことであった。
 彼を城主に据えて、形としては、彼が国家元首になる形である。そして、これがイギリスによる傀儡政権であるとすれば、イギリス(イギリス内の一組織?)にとって都合がよくなければならないだろう。
 そして、イギリスの傀儡であるということを、世界的にも思わせる必要があるので、そのようにふるまえる人物でなければ難しいことではないかと思うのだった。
 本来であれば、イギリスの一国家の傀儡だと思わせることは、簡単なようで、そうでもない。
 本国にあるイギリス政府が、まったくかかわっていないはずの蝦夷国なのに、勝手に、傀儡国家という意識を是会に与えることに、違和感がないわけではない。イギリス本国にとっても、メリットがなければ難しいだろう。
作品名:歴史の傀儡真実 作家名:森本晃次