「軍人の魂」と、「知恵ある悪魔」
もっとも、日本側としては、半年で戦争が終わるのであれば、それは敗戦ではないと思っていたはずなので、もし、諸外国が、731部隊の存在に気づいていたとしても、あまり追及はできないだろう。
本当は、日本は、半年の時点で、当初の計画通り、タイミングを見計らって、和平に持ち込むべきだったのだ。
実際に、あれだけの勝ち戦だったのだから、それはできたはずだった。
やはり、日本人は、傲りと自信過剰とがひどいので、冷静な状況判断できずに、泥沼に入ったのだろう。
中国の戦線も同じことで、天皇が陸軍の幹部に、英米戦突入の前に展望を聞いた時、
「お前は、どのように見ている」
と聞かれた幹部は、
「二、三か月で太平洋を蹂躙してみせます」
と言った。
そこで天皇は、
「お前は、中国戦線を拡大した時も、同じようなことを言ったではないか。それなのに、もう二年近くも膠着状態が続いている。これはどうしたことだ?」
と言われて、焦った幹部は、
「中国大陸は奥が深く、広うございます」
というと、天皇はそこで、キレたように、
「何を言っている。中国大陸が広いというのであれば、太平洋はさらに広いではないか。お前の言っていることはサッパリ分からぬ」
と言われたという逸話が残っている。
これほど、日本軍は、対英米戦に対して、甘い考えと、ビジョンがハッキリとしていなかったということであろう。
そのっ幹部としても、
「勝てるわけのない戦争に、どうして挑まなければいけないのか?」
と思っていたのかも知れない。
軍の上層部に行けばいくほど、政府も高官になればなるほど、その懸念は強く持っていたことだろう。
だから、最後まで、外交交渉に臨みを繋いでいたのは当たり前のことで、戦争賛成派というのは、軍の中で、
「戦争をすることによって、儲かる」
という一部の特権階級なのかも知れない。
それよりも大きな問題は、マスゴミや財閥などの経済界の特権階級が、国民感情を煽ることで、
「戦争に突入しないと、いけない」
という、世論の声になってしまったのかも知れない。
だからこそ、占領軍が最初に行ったのは、
「財閥の解体」
だったのである。
そんな時代において、この組織は、
「世界各国での、同時多発テロを企んでいるようである」
という話が国連に伝わった。
そのための人間の、そして人足を奴隷として扱う感覚は、奴隷問題として扱ってはほしいが、それが人権問題にならないようにうまく使うために、麻薬が必要だった。
彼らを奴隷として扱うのは、まだマシな方で、彼らをテロリストとして、
「命知らずの奴隷」
を作り上げることが目的だったのだ。
同時多発的にテロを引き起こすことで、何かを隠蔽しようとしているようで、この作戦を考えた人間も、この島で、横田少尉と、麻薬となる植物を発見しなければ、ここまで計画を練らなかっただろう、
しかし、よくこの計画が国連に漏れたものだったが、どこから漏れたのかというと、どうやら横田少尉からのようだった。
横田少尉を彼らは完全に洗脳していたようだが、それ以前に、殻の根底には、
「大日本帝国、臣民、そして軍人としての誇り」
があったのだ。
大日本帝国というものを軽視し、さらに、帝国軍人を甘く見たことが、彼らの失敗だったのだ。
「神なき知育は、知恵ある悪魔をつくるものなり」
という言葉を思い出してしまった。
組織の連中は、確かに、
「知恵ある悪魔」
なのかも知れないが、知恵を使う時、傲りが募ってしまうと、知恵が知恵ではなくなってしまうのではないだろうか。
甘く見てしまったことによって、知恵があったはずの組織の天才連中も、大日本帝国の731部隊が開発した兵器を使おうという知恵は、きっと、持ちあわせていないに違いない。
横田少尉は結局、まだ大日本帝国の亡霊に支配されたままである。そんな横田少尉に対して、国連からは、名誉軍人としての称号が与えられたのであった……。
時は、昭和40年、戦後二十年が過ぎたくらいのことであった……。
( 完 )
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作品名:「軍人の魂」と、「知恵ある悪魔」 作家名:森本晃次