Locusts
「青鬼、木之元。お前らにはモチベが足らん、モチベが。おれらが福田を煮込むのに、何時間かかったと思う? ほんまはもっと効率のいいやり方でやりたいけどな、評判が立ってるから寸胴を使わなしゃあないねん。それでも、コツコツ前向きにやらせてもらっとります」
勝則は部活の顧問のように言うと、木之元の前に屈みこんで、その頬を力任せに平手打ちした。乾いた音が天井に響いて消えるのと同時に、勝則は続けた。
「仲間なんやろ? おれの団地、おれの家族みたいな。そんなんちゃうんかい、お前? なあ?」
木之元が真意を掴み損ねて顔を前に戻すと、勝則は続けた。
「お前、結構偉いんやんな? 部下が何をしておれらが来てるか、知らんでいいん? それはマネジメントとしてどうなん?」
青鬼はそのやり取りを聞きながら、木之元の言葉を待った。裏のバイトで三千万の穴を空けた。さっき耳打ちした通りだ。木之元の反応が本音なら『みんなやっとるわ』だが、今も同じことを言うだろうか。青鬼は意を決して、勝則が口を開きかけたのを遮る形で言った。
「木之元さん、すみません。裏のバイトで、薬代の三千万をポン松に持って行かれました」
「しょうもないな。そんなん、誰でもやっとるやろ」
木之元の答えは、事前の打ち合わせを再現したようにスムーズだった。勝則は青鬼と木之元の顔を交互に見ると、口角を上げた。
「青鬼、正直やな。好きやでそういうの」
青鬼の相槌を待つことなく、勝則は木之元の方を向いた。なかなか冷静だが、まだその心には拠り所が残っている。それを叩き潰せば、本性も見えてくるだろう。
「誰でもやっとるやろ、か。確かにな」
木之元の目を見ながら、勝則は続けた。
「同じこと、早川さんも言うとったわ」