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オオサカタロウ
オオサカタロウ
novelistID. 20912
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Locusts

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 木之元が言うと、椅子に浅く腰かける勝則は黒縁眼鏡をずり上げながらうなずいた。
「ドライブに入ったん、気づかなくて……」
 青鬼は二人の会話に耳を傾けながら、赤鬼の方を向いた。おそらく、同じことを考えている。木之元の足首が折れたのは、あまりに好都合すぎる。その性格を考えると、片方の足が折れていても自分の力でどうにかしたいのだろう。だからこそ、まだ通報自体していない。そして警察が来たら、ポン松が未成年の女子を連れ込んでいることを伝えるつもりに違いない。そこからどんな風に事が進むにせよ、ポン松は一旦部屋から出る以外、手がなくなる。姿を一度見せたら最後、見張りがどこまでも居場所を追い続けて、ポン松はどこかで捕まるだろう。問題は、木之元のやりそうなことに乗り続けていると自分たちも地獄行きになるという点だが、そこはタイミングを見計らって、木之元を静かにしないといけない。
 キノをねじ伏せる。それは想像するだけでも、過去最大のヤバさだ。青鬼は剃刀を収めたポケットに一度触れて、赤鬼に言った。
「背中どうなん」
「自分で分かると思うか? 見てくれや」
 青鬼は背中を見て、木之元がほとんど傷をつけることなく痛がらせていたことに気づいて、目を丸くした。さすが人を痛めつけることに慣れている。赤鬼は背中をズタズタにされた気分だろうが、実際には浅い切り傷が一本で、あとは繊維がうっすらと切れただけだ。
「ほぼ、なんもなってないわ。兄貴が痛がってただけやな」
 木之元が二人の会話に気づき、ヴェルファイアの鍵を投げた。赤鬼が受け取ると、木之元は言った。
「赤チン入ってるから、持ってこいや」
 赤鬼は集会場の外に出ると、大きく深呼吸をした。さっきの事故から今までのやり取りを思い出して整理していると、どうしてもひとつだけ引っかかる。こういう頭を使うことは青鬼任せだったが、木之元すら気にしていないようだった。
 掛井は、集会場の鍵をいつも持ち歩いているのだろうか。
 
 熊毛は、一階の非常口まで来たとき、スニーカーの底が鳴るような微かに甲高い音を耳に留めた。こちらの足音に気づいて足を引いたようにも聞こえる。熊毛は耳を澄ませて、後ろを振り返った。誰もいるわけがないし、声を出して呼ぶ作戦は成功しそうにない。前に向き直ったとき、熊毛は目の前に敦史が立っていることに気づいて、目を丸く開いた。
「おー。えっと……、追いかけてごめんな。怖かった?」
 敦史は瞬きを繰り返すと、首をゆっくりと横に振った。
「いえ……、大丈夫です」
 熊毛は次に何を言うか考えていたが、まずは名乗ることに決めた。
「おれは、熊毛。すごい名前やろ」
「漢字は動物の熊……、ですか?」
「そう、動物のやつ。それに髪の毛の毛よ。まー、子供のころはイジられたで」
 間が空き、敦史は自分の番だと理解したように口を開いた。
「掛井敦史です。妹は瑠奈」
「そうか、ありがと。お父さん、めっちゃ派手に事故ってたな」
「ドジなんですかね」
 敦史が言い、その呆れたような口調に熊毛は笑った。
「キノが悪いんちゃうか。ここで起きる大抵のことは、あいつが悪いねん」
 その乱暴な理屈に、敦史は頬を緩めた。熊毛は橋本が人の心にするりと入り込む姿を思い浮かべながら、できるだけその真似をしようと努力していたが、敦史相手には少し効果を発揮しているようだった。
「そんな悪者なんですか」
 敦史が言うと、非常口の陰から瑠奈が顔を出した。熊毛は、非常口の光で緑色に照らされる敦史と瑠奈の目を交互に見て、言った。
「ほな、戻る?」
 二人が同時にうなずき、熊毛は二人が先に歩けるよう笑顔で道を空けた。敦史が歩き出そうとしたとき、瑠奈がやり残したことがあるように指をぴんと立てると、スマートフォンを取り出した。画面に照らされた顔が紫色に光り、その色でまた占いのページを見ていることに気づいた敦史は、苦笑いを浮かべた。
「瑠奈、占いは後でええって」
 瑠奈は首を横に振り、ページを見つめながら言った。
「熊毛さん、生年月日教えてほしいです」
「九九年、四月八日」
 熊毛が同級生と雑談をするように答えると、瑠奈はスマートフォンに情報を打ち込み、検索ボタンを押した。
「へー」
 瑠奈は結果を見て、笑った。熊毛は敦史と目を合わせて笑うと、言った。
「教えてくれへんのかいな」
 熊毛は、瑠奈が隠そうとするのを承知でわざと覗き込む振りをしたが、瑠奈は逆に、左手に持ったスマートフォンを差し出して、言った。
「今日、死ぬって」
 瑠奈は右手に持った両刃のナイフで、熊毛の首をまっすぐに切り裂いた。
    
 エプロンをくまなく叩いていた宮田は、突起物に気づいてそこで手を止めた。右のポケットで、仕事中は特に何かを入れることのないスペースだ。雨野が新規客の案内を終えて戻って来ると、笑った。
「お色直し長すぎ」
「なんか入ってる」
 宮田はポケットから突起物を取り出した。雨野は顔を引いて目を大きく開いたが、その正体にすぐに気づいて顔を近づけた。
「指輪? ラムシュタインやん。リーダー、こんなん聴くんですか?」
「いや、聴かんで。どこで入ったんやろ」
 宮田は角ばった指輪を鏡の前に掲げた。内側に黒っぽい染みがついていて、リング部分にはR.FUKUDAと彫られていた。
 
 真希子のスマートフォンが光り、勝則が顔を向けた。
「なんか来た?」
「うん。てか、掛井さん戻らんな」
 テーブルにもたれかかる木之元が、顔をしかめた。
「なんの話してんの?」
 真希子は椅子から立ち上がると、優雅な仕草で入口まで歩き、内側から鍵を閉めて呟いた。
「まあ、いいでしょう」
 青鬼は木之元と目を合わせた。木之元は顔をしかめるのに忙しく、それ以外の動作が思いつかないように何も言わなかった。青鬼は真希子に歩み寄り、制止するように右手を差し出しながら言った。
「それ閉めたら、外から入れんくなるから……」
 真希子は振り返ると、猫のように大きな口を開けて笑った。
「そらな」
 ハンドバッグから取り出した手斧を振りかぶった真希子は、青鬼が差し出した右手の親指から中指までを切り落とした。勝則は立ち上がって、テーブルに寄りかかる木之元まで近づくと、一度折れた足首を力任せに蹴りつけた。元々折れていた骨が完全に真っ二つになり、木之元は痛みでバランスを崩して地面に倒れた。足首を押さえて呻き声を上げる様子を見ながら、勝則はからかうように痛がる真似をして、木之元の周りを飛び跳ねた。
「ほらぁ、めっちゃ痛そうー!」
「ちょっと、みっともないからやめてや」
 真希子が呆れたように笑うと、勝則は飛び跳ねたことで半分以上ずれた黒縁眼鏡を元の位置まで戻し、真希子のバッグを指差した。
「道具くれ」
 そのテンポに応えるように、斧を地面に置いた真希子は、バッグからスミスアンドウェッソンエアウェイトを取り出して投げた。勝則が真っ黒な拳銃を器用に両手で受け取ったとき、真希子は自分たちが『夫婦』であることを証明するように、同じ形をしているが銀色のレディスミスを取り出して、右手に持った。
 木之元が痛みに歯を食いしばりながら顔を上げたとき、勝則はエアウェイトの銃口をまっすぐ向けて、言った。
作品名:Locusts 作家名:オオサカタロウ