果てがない河
王国編9 『賓客』
与えられた部屋は、大きく美しく、贅に溢れていたが如何せん古めかしかった。
それというのも王国に最早余裕がないことの現れであることは、観たままに知れた。
新しい調度が用意出来ない。
その中でできうる限りの見栄を張った結果がこれ、というわけだ。
「下がれ」
男は脇に控える8人にそう告げた。
束の間、見えない動揺がその一同に走る。
控えめな目配せが一瞬で交わされた。
「聞こえなかったか。皆、下がれ」
男は重ねてそう言った。
口調は穏やかであったが有無を言わせぬ高圧がそこに潜んでいた。
「しかし、父君は」
一同の中でもっとも男に近く、左脇に控えた男は小さく進言を行おうとしたが、男はそれを片手を挙げて制した。
「ここには、父王はいない。
そして俺がここでその全権を代理するということは――分かるな?
お前は今、『国王の言葉』に面として逆らおうとしているのだぞ?」
左脇に控えた男は最早継ぐ言葉がなかった。
深々と一度頭を下げて、残る者へと右手で下がるよう指示を下した。
後ろ足のまま一同が部屋の入口へと戻り、瓶から溢れる水のようにそこから外へと滑り出た。
その後、音もなく戸が閉められる。
男は一連の様子を睨めつけて、ふんと鼻を一度鳴らした。
そして、部屋の中をまた一瞥した。