果てがない河
現代編1 『或いは単に序』
電車の窓から影を見ていた。
パンタグラフと言っただろうか?
電車の屋根に取り付けられて、電流を取り込むあの菱形の針金のような、あれだ。
夏の日差しは傾き始め、山間の中からパンタグラフの姿を削り取られた岩肌に黒く映し、うねうねと歪ませては戻り、また歪ませる。
私が見ていたのは他愛のないそんな姿だったのだが、頼りなく歪んでは戻るその影の姿につい、自分の今を重ね合わせていた。
16歳、高校生、女子。
美人でもなければ特段可愛くもない。
お洒落に興味はあっても控え目な性格が災いして、着飾る事には抵抗がある。
なので目立ちたくは無いが、やはり年代の真ん中よりは少しだけ可愛いと思われたい。
それが私。
でも、学生の本分として一番は勉強だ。
なので私は今日も塾へと通う。
電車に乗り、田舎町の隣駅へとその身を移す。
嘘だ。
嘘だ、そんなのはやはり嘘だ。
そんな『本分』は私が両親に感じる義理に過ぎない。
未来をより良くするためには勉強が一番足がかりになるという事は分かっている。
でも『分かっている』という事と、『求めている』という事と、『求められている』と感じる事には、およそ水と油よりも確たる乖離がそこにある。
未来に対する選択肢を少しでも多くするためには、お勉強が欠かせないという事は『分かっている』。
でも私が『求めている』事は、『真ん中よりも上に自分を社会的に置くこと』で、でも両親から『求められている』ことは、『学校ヒエラルキーの中で私を限りなく上の位置に置くこと』なのだから。
――もうすぐだ。
うねうねと岩肌にうねるパンタグラフの影を見つめながら私は思った。
何がもうすぐなのかって?
それは、
ガタンという音とともに、電車が鉄橋にさしかかった。
それまで目の前にあったパンタグラフの影が瞬間、消えてしまう。
変わって目の前に広がったのはキラキラと光る水面の姿だった。
陽の光は粒となり、水に跳ね返り、私の目に届く。
思わず私は目を細める。
それはきっと束の間。
電車はきっと今日もこのまま、鉄橋を渡り終わったなら、また岩肌の側を渡り、うねる菱形をこの目に映す。
――でも、もし、
この河に『果て』が無くなれば。
夢想し私は水面の果てを目で追う。
そこには、