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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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日本 むかし 小話

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 翁は借金取りに追われ、媼は悪いうわさや嫌がらせに困り果てておった。
「じさま、何とかお金を工面せねばなりませんねぇ」
「ばさまや、金儲けの名案は無いかの?」
「手品でも練習して、枯れ木に花でも咲かせたらどうですかねぇ?」
「パフォーマンスは苦手じゃぁ。それにこの木は柿の木じゃ、いたずら者のモンキーが渋柿を投げよる」
「そんな猿、小槌で叩いたら、小判でも出て来んじゃろか」
「無理じゃろ。それより鶴でも助けて、恩返ししてくれんかのう」
「わたしこの前、舌を切られたスズメを助けてやったが、なぁんも音沙汰なしじゃぁ」
「また奇跡でも起こらんかのう?」
 結局、翁と媼は耐えられず、二人して夜逃げするしかのうなってしもうた。

 行き着いた先は、ある小さな漁師町じゃった。
二人はその浜辺の近くにあった、古い空き家で暮らしはじめよった。
「ああ何を隠そう、ここは以前わしが住んでおったところじゃ」
「じさま、竹取りの前は魚捕りをしておらしたんじゃの」
「そうじゃ、昔から竹で釣竿や魚籠を作るのが得意だったんじゃ」
翁は囲炉裏に魚を吊るしながら話しておった。
「なら、まだこの辺りに知り合いがおるんじゃないかの?」
「それがどういう訳かまったくおらんのじゃ。ここにおったのは、そんな昔ではないはずなんじゃが」
「若い頃の話でしょうに」
「そうじゃ、わしは若い時、この浜辺でいじめられておった亀を助けての」
「ほうほう、亀をのう」
「そのお礼に竜宮城と言うホットな店に招かれたのじゃ」
「ふむふむ。お楽しみなさったんじゃな」
媼は翁をじっと見つめながら話した。
「ああ、あれは夢のような時間じゃった」
翁は宙を見上げた。
「でも家に戻って気が付けば、こんなじいさんになってしもうとった」
翁はそう言うと、小屋の床をめくり、地面に埋めた箱を取り出した。
「これじゃ、これじゃ。不思議なことには気を付けねばならん。わしはこいつのせいで年を取ってしもうたんじゃ」
「そうかそうか。それは不思議な煙の入った玉手箱じゃな」
「・・・ばさま、どうしてそれを知っておるのじゃ?」
媼は翁の前に、うやうやしく膝まづいて、
「実はその玉手箱は、わたしの物でございました」
「これは、乙姫ちゃんにもらったプレゼントじゃ」
「はい、確かに。・・・わたしがその乙姫でござりまする」
「はっはっは。信じられん話じゃ。でも竹でも桃でも不思議なことはあるからのう」
「あの時、浦島様のことが忘れられんで、すぐに後を追ったものの、時すでに遅し。竜宮城とこの世はタイムラグが激しいからのう」
「どうしてお前さんまで老婆になっておるのじゃ」
「竜宮の住人は、この世ではあっという間に年を取ってしまうんじゃ。その玉手箱は、双方の時間の進み方を合わせる道具なのですじゃ」
「なんで若さを保つ方に合わせんかったのかの?」
「時間とは一方通行で、逆戻りは出来んのじゃ」
「わしは相対性理論はよう解らん。その後、わしを捜して当ててくれたのかぇ?」
「はい、それからずっとおそばにおりましたじゃ」
「なんといじらしいのじゃ。ばさま~♡」
「ああぁ、じさま~♡」