無限の可能性への冒涜
「人間にはない能力を持っている」
ということであったり、
「人間世界と神の世界を自由に行き来できる」
あるいは、
「支配できる」
ということから、
「神というのは、人間よりも偉く、優れたものだ」
ということになっている。
しかし、果たして、優れているから偉いといえるのだろうか。
神というのは、人間を羨ましがっている神もたくさんいる。ひょっとすると、人間になりたいと思っている神もいるかも知れない。
前述のように、人間に憧れるから、人間よりも人間臭く、嫉妬深い存在として描かれているのかも知れない。
そして、人間世界における理不尽なことや、納得のいかないことを、
「神のせい」
にして、まとめようとしているのが、神話の世界だとすれば、古代人の考えていたことが、何となく分かりそうな気がしてくるのは気のせいだろうか。
タイムマシンの存在こそ、人間が神に憧れるということの裏返しではないかと思うと、実際にタイムマシンの開発がリアルになされるというのは、どこか納得のいかないことの一つのように思えるのだった。
そんなタイムマシンについて、少し疑問が感じられるようになった。
一番の疑念は、
「一か月ちょっとで、何もないところからタイムマシンが生まれるか?」
ということであるが、確かに門脇のいうように、秘密裏にかはつうぃしていたから、分からなかったというのも一理あるだろうが、それだけではないと思えてきたのだ。
しかも、様子を見ている限りでは、開発のメンバーが入れ替わることは内容だったので、陰でひそかに研究しているのだとすれば、誰がしているというのだろう?
それを考えてみると、松岡は、
「何か、俺は嵌められたのではないか?」
という気にさせられたのだ。
タイムマシンが出来上がるということを、本当であれば話してはいけない相手である門脇に話した。門脇は予言を行い、それに伴って、疑うこともなく、松岡は過去の世界にやってきたのだ。
その時に開発されていなかったタイムマシンがあたかも、すでに開発済みであるかのように見えたのは、最初からあったものを、自分たちの研究であるかのように見せていたからではないか。
研究の発表はあったが、どんな形なのか、まだ公開されていない。だから、我々にはその正体は分かっていない。
それを、探るように言われて、自分たちが開発したタイムマシンを使って過去に行く。まるで実験もかねているようではないか。
それが本当の過去なのかどうか、パラレルワールドや、
「無限に存在する可能性」
などというものが、存在しているとすれば、それをどうやって証明すればいいのか、これも、曖昧なものである。
そうなると、すべてが、虚空を見つめているようで、人が言ったことが、すべて、曖昧に感じられたり、どこまで信じていいのか分からないという発想から、そのすべてを受け入れる体制がなければ、過去になど、いけるものではないだろう。
松岡はタイムマシンを使って過去に行った。その時、ひょっとすると、M大学の連中は、タイムマシンをK大学が開発するということを知っていて、自分たちが開発できるように、松岡を使って、過去に行かせた。
そして、そのタイムマシンを、降りて、過去の世界を調査している松岡をしり目に、隠してあるタイムマシンをちょっと使って、さらに、過去に持って行ったとする。
そのタイムマシンをコピーする形で、設計図のようなものを作ることができるという開発を、実はM大学はひそかに完成させていた。
そして、松岡の知らない間に、さらに過去に設計図を作られ、それをひそかに研究していたのかも知れない。
松岡がそれを知らないのは、それぞれがパラレルワールドの無限の中の可能性の一つとして存在しているからだ。
そのことを、M大学側は分かっていて、松岡を利用したのだ。
松岡が過去に行くことで、その時にそれを知っていた人間が過去にそれと分かるような伝言を残していた。それは、
「この機械はタイムマシンであり、この時代にK大学の男が滞在している間、使いたい放題だ」
ということであった。
その男は、過去からK大学がタイムマシンを開発するまでを、知っていた人物ということになる。
それが予言であり、予見だったとするならば、ここで問題になってくるのは、門脇だということになる。
「あの人がM大学のスパイだというのか?」
信じがたいと思ったが。そう考えれば、ある程度まで説明がつくではないか。
「過去に行くということは、タイムパラドックスを生むことになる。だから、自分のいうことなら素直に聞く相手を作っておいて、その人物を、予言という形で洗脳し、過去に行かせてしまえば、何とでもなる」
と思っていたのだ。
だから、開発されていないはずの過去に、自分がタイムマシンで行ってしまったことで、それまでになかったパラドックスが無限に生まれ、あたかも、
「最初にタイムマシンを開発したのは、M大学だ」
ということになるのだ。
本当は先に開発したK大学のタイムマシンを過去にやることで、その時代の人間に、そのことを予見できれば、タイムマシンを盗むなどたやすいこと。それが、門脇にとっての「予言」
というものだったのだ。
いかにして、過去の人間に未来の人がそのことを伝えることができたのか、それは、この男が予言のできる男だったからだ。
「未来から、タイムマシンに乗った男が現れ、タイムマシンを隠すので、その間に、タイムマシンの秘密を嗅ぎ付ければいい」
と助言した。
松岡に対して、タイムマシンの隠し場所まで話をしたのだから、それも予言によるものだった。
「予言がタイムマシンよりも強いということさ」
と、ほくそ笑んでいるのは、門脇だった。
彼は、パラレルワールドでは、谷口の役目をしていて、実際にはそれだけの開発能力を持ちながら、この世界では開発できない。
この世界での谷口も、今の門脇ほどの開発能力が実際にはないのだ。それなのに、二人ともタイムマシンの開発に一役も買っていないくせに、タイムマシンだけは開発される。それを嫉妬の思いで、門脇は感じていた。
だから、谷口には、
「自分で開発したわけではないのに、タイムマシンの開発者としてもてはやされることのもどかしさを味わってもらいたかった」
と思った。
普通の人であれば、実際に開発もしていないのに、名声を得られることは嬉しいのだろうが、彼は開発者である。
「開発者には、そんなぬか喜びのようなものは必要ない」
と思っているだけに、門脇の思惑は功を奏することだろう。
松岡に対しては、さらに嫉妬心を持っていて。何と言っても、自分の与えたヒントを開発に結び付けたのに、それをなぜか先を越されてしまい、しかも、それを阻止するためと称して、門脇の口車に乗り、まんまと、門脇の思い通りに事を運ばせてしまった。
今は、二人ともその事実を知らないが、そのうちに次第に知ることになる。
そもそもタイムマシンというのは、短命であり、その開発はタブーなものなのだ。それを教えてくれたのは、タイムマシンがこの世に出たこの時のことが、いずれ分かることで、世の中の人も、
作品名:無限の可能性への冒涜 作家名:森本晃次