新年度を迎えた
いつもの車両の優先席の真中が空いていた。優先席は私の席である。
右隣に黒ずくめの若い男が、眼を閉じて足を開いていた。
優先席に腰かける資格はないように思われる。
男は酒臭かった。焼酎の臭いだ。
いびきをかきながら、時々「チェッ、チェッ」と舌打ちした。
夢を見ているのだろうか、それとも私に文句があるのだろうか。
私は警戒した。
男は、朝までどこかで飲んでいたのだろう。
昨年度から今年度にかけて、飲んでいたのだ。
新年度だから気持ちを切り替えるべきなのに、この有様だ。
一言言ってやろうかと思った。
しかし、もしかして、何かのボランティアをやった打ち上げで酔っ払ったのかもしれない。
感心な若者の可能性もある。即断は許されない。
男がなぜ酒を飲んだのか、なぜ舌打ちをしたのか、疑問が残ったが、私には、新年度のあいさつがある。
男を残して、次の駅で降りた。