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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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あの穏やかな ✕ 椰子の木の下

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狂った歯車



★バン! バーン!

 荷室から銃声が聞こえた。マストに登っていたマルコは、驚いて眼下を見下ろした。甲板の床に設けられた荷室のハッチから、奴隷たちが溢れ出るように上って来たかと思うと、すぐその背後から警護士が追いかけ出て、逃げ惑う奴隷を鉄砲で撃つのを目撃した。

 多くが容赦なく射殺され、海に捨てられた。それでも混乱は収まらず、乗船していた監査官は、残された奴隷達全員を甲板に並べ、彼らの殺害を指示した。船長がそれに異議を唱えると、監査官はなに躊躇なく、短銃で船長の胸を撃ったのだ。そして監査官とその警護士たちに、そのサンタ・アナ号は乗っ取られる形となった。
 監査官は残された船員たちに、持ち場に戻るように命令したが、誇り高き船乗りたちは、操船を拒否した。それで更に見せしめに奴隷が一人、警護士によって海に投げ入れられた。
「貴様ら! ワシの言うことを聞かんかぁ! さもないと密輸と奴隷売買の罪で、全員死刑にしてやる!」
監査官の怒りは収まらない。
 こんなことが許されるはずはないが、本国に着くまでに監査官たちによって、真実は揉み消されてしまうだろう。つまりそれは船員全員の死を意味していた。
「・・・・・・」
船上は静まり返り、誰も動こうとはしなかった。
「まだ言うことを聞かんのかぁ!」
監査官は、目の前にうずくまる船員の胸ぐらをつかんで、無理やり立たせて、
「なら、お前も海に捨ててやる!」
「ひやぁぁ! やめて! やめてくれ! 俺は、俺は操舵士だぜ! 俺がいないと、この船の舵取りは誰がすると言うんだ!?」
操舵士はそう叫んで、殺されるのを免れようとした。
「そうか。おまえが船を操る責任者だったか? なら、なぜすぐにワシの言うことに従わん!」
そう言って、その船員を海に突き落としてしまった。しかし、船に残された誰も、彼に浮きを投げてやることさえ出来なかった。
「副長! お前が舵を握れるよな」
床に座る副長は、監査官の目を見る勇気がなかった。
「聞いてるのか! この野郎!」
監査官はそう言って、今度も目の前にしゃがみ込む別の男に歩み寄った。
「お前、立ちやがれ!」