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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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あの穏やかな ✕ 椰子の木の下

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運命の日



 港を出港する日の朝、マルコはバーで朝食を摂っていた。その店は子供の頃からのなじみの店だった。小さい頃、よく父親に連れて来てもらっていたのだ。
 マルコの父親もまた船乗りだった。父は出港前には必ずこの店で腹ごしらえしていた。そこにマルコも付いて来て、そのあと父親を航海に送り出すのが習慣だった。
 その店が好きだった理由はもう一つある。壁に掲げられた地図のせいだ。それは伝説の海賊キャプテン・モローのサインが入った宝の地図だと父親から聞いていたので、マルコは海賊を一種のヒーローのように感じ、大海原への想像力を搔き立てられたのだった。
 しかし、ある時から父親は帰って来なくなった。父の乗った船が海賊船に襲われて沈没したという噂が流れた。それで幼いマルコは海賊が大嫌いになってしまった。
 
 マルコは店を出て波止場に向かうことにした。そこには一段と大きな商船が停泊していた。それは、この国の大富豪フランコが船主の大洋貿易船『サンタ・アナ号』であった。
 大人になったマルコは船乗りになり、外国まで航海していた。そして今日からこの船に乗ることになっていたのだ。

「みんなよく聞け。今回の航海には、重要な仕事がある。品物を運ぶだけではなく、植民地から奴隷を連れて来るのだ」
 船長が甲板で大きな声で言った。奴隷を専門に運ぶ奴隷船も多いが、このサンタ・アナ号はこの国で最も大きな商船である。それで奴隷を運ぶとは、船員たちも予想していない事だった。
「キャプテン。奴隷たって、いったい何人くらい運ぶお積もりで?」
副長が質問した。
「五百人だ」
「ひぇ~五百!?」
「そうだ。五百人も運べる船は、このサンタ・アナ以外にない」
「しかし、そんなに奴隷を連れてきちゃ、港の役人たちに目を付けられるんじゃねえっすか?」
「心配はいらない。その為に今回は、船主のフランコ様が手を打ってくださっている」
「へへへへ。役人は賄賂がお好きってことでさぁね」
「それにこの航海には、港の監査官も乗船されるのだ」
「へ? 役人が同行するとは、相当な力の入れようでガスね」
「彼の身辺警護に、警護士を五人も連れていくことになってる」
「へへへへ、こりゃ何か特別な裏がありそうでさぁねぇ」
「これからの時代、奴隷の売買は合法的なビジネスになるらしい」
 マルコはその話を、(立派な商船としては、あまり尊敬出来ない仕事だな)と思いながら聞いていた。