あの穏やかな ✕ 椰子の木の下
マルコは興味深かったが、あまり気にしていないふりをして聞いた。
「そんな地図がここにあったら、海賊に狙われるんじゃないですか」
「それがね、襲われたんですよ。ある日、フランコさんの所の水夫が二人、この地図を売ってほしいと言って来やしてね。私ゃね、本物の宝の地図だとは思ってないですよ。二人してどうしてもって言うもんだから、銀貨十枚で譲ってやったんですがね」
「それがどうしてまたここに?」
「その水夫の一人、その晩殺されましてね。港に浮かんでいたんです」
「誰がそんなことを」
「仲間割れでしょうかね。宝の地図ですから。海賊に通じてたのかも。はっはっはっ」
「この地図が持ち出されるってことに、海賊が気付いたんでしょうか」
「そうかも知れませんね。そうだとしたら、この地図は本物でさぁね」
「地図がまたここに戻って来た理由は?」
「いや、港の隅に浮かんでたのを拾った人がいて、この店の地図だって気付いたから持って来てくれたんですよ」
「何か因縁を感じますね」
「いやー、銀貨十枚、得しましたよ。でもその時、下半分が破り取られてしまってて」
「確かに下半分が無いですね。ここには何が描いてあったんですか?」
「・・・ふふふ、✕印です。ただの浜辺の中央、崖のヘリに赤くバッテンが描かれていました」
「赤い✕印。そこが宝の在り処と言う訳か・・・」
「どうでしょう。ただの上陸地点に思えましたけど」
「じゃあ、もう一人の水夫は洞窟を探し当てたのかな」
「かも知れませんね。どう見たって洞窟が怪しいと思ってしまいますけどね。マルコさん、浜辺を探したらいいですよ。はっはっはっは。どこの島か判ればの話ですけど」
そう言うと店の主は、カウンターの奥に引っ込んで行った。
マルコは急いで店を出た。ゴロツキもその後を追いかけた。そしてマルコは走りながら、桟橋で出港準備をしているクンタたちに大声で叫んだ。
「すぐに出港するぞ!」
「アイアイサー」
ゴロツキがマルコに追い付く前に、マルコはアベベ号に乗り込んでしまった。
作品名:あの穏やかな ✕ 椰子の木の下 作家名:亨利(ヘンリー)