あの穏やかな ✕ 椰子の木の下
本当の運命
ある日、マルコは港のバーに行った。もう船のオーナーになったマルコには縁遠いみすぼらしい店だが、子供の頃からのなじみの店だ。マルコが海に出る日の朝は、今も必ずこの店で朝食をとることにしていた。
その店に一人のゴロツキが食事をしていた。監査官は腹いせにマルコ達を殺害しようと、そのゴロツキを雇ったのだった。彼は腰に短剣をぶら下げていた。しかし、この店の中で殺害を実行するわけにはいかない。マルコが外に出るのを待つ必要があった。港には多くの物資が置かれ、人の死角になる場所も多かったので、ゴロツキはそんなチャンスを待っているのである。
マルコは食事を済ませ、店を出ようと席を立った。それを追うようにゴロツキも席を立ったのだが、マルコは壁の地図を見て、ふと立ち止った。キャプテン・モローの地図の前だ。ゴロツキも一緒に立ち止まるわけにいかず、仕方なくマルコの横を通り越し、店を出て人気のない路地に身を潜めた。
マルコはその地図をじっくり見て絶句していた。
(この島の形・・・半分破れてしまっているけど、その洞窟の位置はあの島の洞穴と一致している・・・)
マルコの全身に鳥肌が立った。
(あの見付けにくい洞穴が、まさか、あの島が)
地図に近付いてじっくりと見た。
(あの洞穴にはもう大したものは残っていなかった。後に海賊が全部持ち出してしまったのかもしれない)
ふと破れている部分が気になった。
(僕が漂着した浜辺が切れてしまっているのかな)
「マルコさん。あなたはこの地図が好きですねぇ」
店の主が話しかけて来た。
「ああ、子供のころからずっと見て来た。この地図にロマンを感じて船乗りになったんですから」
マルコは微笑みながら話した。
「キャプテン・モローの宝の地図ですものね。本物かどうかはよく判りませんが、はっはっはっは」
「この地図はどうやって手に入れたんですか?」
「昔、酔っ払いが飲み代を払えずに置いて行ったんですよ。価値がある地図だからと言って」
「ほう」
作品名:あの穏やかな ✕ 椰子の木の下 作家名:亨利(ヘンリー)