あの穏やかな ✕ 椰子の木の下
マルコの仲間の船乗りや奴隷たちは、海賊に殺されたのか、はたまた沈没して溺れてしまったのか、もう知る由もなかった。さらにマルコが告発した監査官の正体は不明で、裁判は思うように進まなかった。
結局、金の力でその告発はもみ消される結果となったが、奴隷ビジネスの噂が広まり、フランコには悪評が立ち、保険金の支払いは停止されてしまった。そして新造船の建造は途中で止まり、その結果、彼のビジネスは傾き始めた。
それから一年ほど、有名人のマルコは人目にさらされる生活が続いたが、やがては落ち着き、島から持ち帰った財宝で、小さな商船を買った。その船にはあの島で殺されたクンタの友達の名前を付けた。『アベベ号』である。そしてクンタと共に、若い水夫を五人ほど雇って、自分たちで貿易業を始めることにした。
小さな桟橋に係留されたアベベ号の改修作業中、立派な馬車が横に停められたのを見て、マルコは作業の手を止めた。
「マルコさん。フランコ様があなたにお話があるそうです。屋敷までおいで願えますかな?」
御者が船の上を見上げて叫んだ。マルコは眉に力を入れて、その男を睨んだ。
(フランコが雇った監査官のせいで大勢が死んだんだ。噓つきのフランコになど会いたくないな)
「急いでくださいませ! さもないとこんな船、操業停止にも出来るのですよ」
(なんと厄介な事だ。権力で何とでも出来るつもりなのか)
しかし、開業したばかりの仕事を潰させるわけにはいかない。雇った水夫たちの生活もある。マルコは気を改め、
「分かりましたよ。すぐに参ります」
と言うと、
「待ってください。一人は危険、私も行く」
クンタが同行を申し出た。
「大丈夫だよ。フランコも被害者だったんだ。彼も監査官の犯罪に失望しているはずだよ。それより今の彼には奴隷ビジネスの方が大事なのさ」
それでもクンタは、付いて行くと言い張り、マルコは仕方なく承知した。
馬車は二人を乗せ、港を見下ろす高台にあるフランコの屋敷に到着した。マルコとクンタは、大広間に招き入れられて、そこの大きな最高級ソファに案内されたが、マルコだけそれに腰かけて、クンタは横に立ったままで待った。
やがて大きな扉が開き、豪華な服を着たフランコがやって来た。
作品名:あの穏やかな ✕ 椰子の木の下 作家名:亨利(ヘンリー)