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孤独の中の幸せとは

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 喫茶「ロマノフ」は、ちょうど世紀末をいい機会として閉店した。常連さんが多かったので、惜しまれながらの閉店であった。あの店も、
「昭和の風物詩」
 として、ずっと頭の中に残っているのだった。
 令和になっての今でこそ、喫茶店で電源を借りたり、ネット環境が整っている店があったりと、今さら感が結構ある。令和三年から見ると、ネットや電源の拡充は、十年くらいの歴史になるのだろうか。それまで普及していなかったことが、不思議なくらいだ。
「ネット環境という意味では日本は後進国だからな」
 と言われているが、まさにその通りであろう。
 携帯電話やスマホの普及が一つはそれを妨げたのかも知れないが、今では昭和の喫茶店はほとんどなくなり、チェーン店のカフェが、所せましと都会の駅前なのにはいくつも点在している。違うチェーン店でも、看板がなければどこのチェーン店なのか分からないほどの似たような店構えで、目立つことは何もなく、正直、コーヒーの味も濃いばかりで、
「電源やネットが完備され、使えなければ、自分にとっては、入る価値はない」
 とまで思うほどだった。
 都心部の駅周辺は、どんどん新しく開発されているが、
「前の方がよかった」
 と思うのは、茂三だけだろうか?
 おかげで、変な詐欺にひっかららずに済んだが、考えてみれば、数百万もあるわけもなく、出版するとすれば、家族に頼るから、借金しかないではないか。
 実際に、協力出版を言われた時、
「お金は何とかなるでしょう。親に頼るとか……」
 などと言われたのを思えば、相手が最初からどれほどいい加減だったかということは分かりそうなものだ。実際に本を出版した人の多くは借金をしてでも出版したりした人も多いだろう。
 何しろ、主婦や学生が、
「にわか小説家」
 になることの多かった時代である。学生は無理としても、主婦であれば、旦那に内緒で、サラ金からお金を借りるなどということはあっただろう。
 しかも、ギャンブルに明け暮れたり、ホストに溺れたわけでもない、れっきとした趣味の範疇なので、それほどの罪の意識もなかったかも知れない。担当の人から、
「あなたの作品は優秀だ」
 などと煽てて、有頂天にさせるくらいは、それほど難しくはないのかも知れない
 それが、出版社の手腕であり、さらにお金を出す方の罪悪感がないとすれば、お金を作るくらいは、困難ではない。
 まさか、
「あなたの本は、すぐに売れて、元が取れるようになるのはあっという間ですよ」
 なんて言葉を言われたりはしていないだろうと思う、
 なぜならそんなことを言ってしまえば、
「だったら、企画出版にどうしてしてくれないんですか?」
 と言われて、そこから先の説得が難しくなるからであろう。
 それを思うと、詐欺を行う方も、ぐうの音が出なかったりするかも知れない。さすがにそこまではできないだろう。
 それにしても、あれだけの出版の数、ブームというのが恐ろしいというべきか、それとも、集団意識の恐ろしさか、今のサイバー詐欺などは、このあたりからが発端だったぼかも知れない。
「タバコを吸いたい」
 と言っている老人、その老人の顔を見ていると、その顔がいかに情けない顔をしているのだろうかと思って、いったん目を離してからもう一度見ると、実に感極まったかをしている。真剣さが身に染みているようで、老人が何を言いたいのかが、伝わってくる気がした。
「まさか、この老人、俺の将来の姿なのだろうか?」
 と考えたが、その人が何も分かっていないのだとすれば、これほど幸せなものはないのかも知れない。
 孤独であれば、まわりのことなど気にする必要もない。孤独の中の幸せというものを、茂三は垣間見た気がした。

                (  完  )



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作品名:孤独の中の幸せとは 作家名:森本晃次