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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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池の外の惨めな鯉

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「メーーーーン!」
静寂を切り開く、中西の金切り声が響いた。しかし、相手も準決勝まで勝ち抜く強者である。そう簡単に面を取らせない。竹刀を横に傾け、中西の竹刀を打ち返そうとした。しかし中西はこの瞬間を待っていた。
「ドォォォォオーーーーゥ!!!」
中西は甲高い声とともに、相手が横に倒した竹刀の下をくぐり、その左腹すれすれを通り過ぎながら、見事に抜き胴を打ち抜いた。
「一本!」
 その瞬間、体育館内に歓声が上がり、それはすぐにどよめきに変わった。和彦の体にも鳥肌が立つほど、見事な一本勝ちだった。
 会場はまだ、どよめきが収まらない。和彦もシートの背にもたれかかり、観客席の様子を見渡して、興奮の余韻を楽しんだ。
(あ! あれは!)
 その会場の正面、和彦の向かい側のニ階席に、桐生伊織が座っているのを見付けた。伊織は和彦に気付いていない様子だ。
(伊織君、剣道なんてバカらしいって言ってたのに、応援に来てるじゃないか)
和彦はすぐに席を立ち、伊織の方に向かって走り出した。一旦二階の廊下に出て、ぐるりと体育館を回り、向こう正面に辿り着いたが、もうその席付近に伊織はいなかった。
(一階に下りたのかも)
そう思って、すぐに階段を駆け下りたところで、面と竹刀を抱えた中西由貴と出会った。和彦はどうしようかと少し躊躇ったが、
「先生。おめでとうございます」
と、微笑みながら話した。
「あ、山本君。ありがとう。どうだった?」
「ええ、カッコよかったです」
「でしょお。あなたも剣道部においでよ」
「あぁ、考えておきます」
煮え切らない返事をしながら、和彦は辺りをキョロキョロ見回したが、桐生伊織は見当たらなかった。
「次の試合、三位決定戦のすぐ後なのよ。私ちょっと用事済ませてくるから、これ持っててくれない?」
そう言って、中西は竹刀と面を和彦に手渡した。
「あ、はい。いいですよ」