池の外の惨めな鯉
「ごめんね。部員は皆、三位決定戦のオフィシャル(審判補助係)だから忙しくて」
そう言うと、中西は体育館の外へ出て行った。和彦は渡された荷物を抱えて、中西の後姿を見送った。そして、廊下の端に設置されたベンチに腰掛けて、中西の竹刀を座面に、面を膝の上に置いた。
(剣道か。やっぱりボクには無理だな。どう言って断ればいいだろう)
汗のにおいが面から漂っていた。和彦にとって、中西由貴は先生としてではなく、一人の女性として好意の対象になっている。その面を被りたいような衝動にかられたが、この場で変態的行動を取るわけにはいかない。しかし、内部に手を入れて湿った汗の感触を確かめてみた。防具を検査するかのように、一つひとつ面のパーツをじっくり触ってみたのだった。その様子が廊下の監視カメラに捉えられているとも知らずに。