池の外の惨めな鯉
本当のエピローグ
殺風景な取調室に一人取り残された和彦は、震える太ももを両手で抑えつけた。そして、うつむいてぎゅっと眼を瞑り、頭を小刻みに振った。
(このままじゃ、ボクが殺人犯にされてしまう。もう、何が何だか分からない。伊織君の家族が殺されたって? その後、伊織君まで行方不明。きっと彼がやったに違ない。中西先生の事故死だって、ボクに容疑がかかってる。あれは間違いなく事故だったよ。ボクもクラブの皆も目撃してたんだから。どうしてそれがボクの仕業なんかに疑われるんだよ。あれ? そう言えばあの日、伊織君も体育館に来てたよな。まさかこっそり何か企んでたんじゃないか? 内田だって転落死だったろ。伊織君はその日も、ボクがカツアゲされそうになったところを目撃していた。まさか仕返しに行ってくれた・・・?)
和彦は、ふっと震えが止まった。
「やっぱり全部、伊織君の仕業に違いない」
韮山刑事が部屋に戻って来た。難しい顔を更に強張らせて言った。
「もうここまでにするんだ。殺された桐生夫妻には、子供はいなかったよ」
「え? 何ですって。桐生君はボクのクラスメイトですよ。先生に聞いてみてよ」
「ふん。学校にも問い合わせたよ。そんな生徒はいないそうだ」
刑事は和彦の様子を眼光鋭い目で見た。和彦をはその目に怯えて視線をそらした。
「それが本当だったら、桐生伊織は誰だったの?」
「お前、まだ転校して来て、二週間だって言うじゃないか。名前を間違って覚えてるんじゃないのか?」
「違いますよ。ボクらは何度も会っていたし、色々話もしたから、名前を間違うはずがない。それに事件があった桐生君の家にも、遊びに行ったこともあって・・・」
「そんなことはあり得ない。桐生家に息子なんかいなかったんだからな」
「そんな! でも、もしあれが偽名だったとしたら・・・じゃ、あれは一体誰だ・・・?」
「頭がおかしくなったんじゃないのか?」
そこに急ぎ足で、年配の男性が入って来た。彼は国選弁護人である。
「未成年に弁護士を交えず取り調べするとは、どういうつもりだ!?」
「いいえ、林先生、ご苦労様です。この子が怯えていたので、ちょっと世間話をしていただけですよ」
和彦は顔を上げたが。背の低い、頼りなく老いたヨボヨボの弁護士を見て、絶望感をぬぐえなかった。