池の外の惨めな鯉
ゴミ箱の中からゴミを引っ張り出して、ゴミ置き場の大きなバスケットに分別していると、
「お前、剣道部に興味があるのか?」
背後から声がした。和彦が振り返ると、そこに一人の男子生徒が立っていた。
「あ、君は確か、え・・・あ君、名前、何て言うんだっけ?」
和彦が初登校した日、和彦の自己紹介の途中に、教室の一番後ろから声をかけて来た生徒だった。
「桐生、桐生伊織だ」
「カッコいい名前だね」
「名前で人生変わるからな。自分で付けたんだ。本名じゃねえよ」
「あだ名ってことなの?」
「誰もこう呼んじゃくれないけどな」
「ふうん。(変なやつだな)ボクは山本和彦・・・普通の名前だけど」
「知ってるって。自己紹介してただろ」
「覚えててくれてたの? 興味ないって言ってたのに」
「ああ、興味はないけど、クラスメイトの名前くらい覚えておくもんだろ」
「そう、そうだね。ボクも別に剣道に興味があるわけじゃないよ。先生が入部を勧めて来ただけだから。君は何部なの?」
「俺は化学部だ。今内緒で毒ガス作ってるんだ。手伝わないか?」
その生徒は、不敵な笑みを浮かべながら小声で話した。
「え?毒・・・」
「ハハハハハ、冗談だよ。嘘に決まってるだろ」
和彦は、桐生伊織と名乗るこの生徒を、風変わりな生徒だと思ったが、内田慎司みたいに、自分に害を与えて来そうなタイプではなかったので安心した。