池の外の惨めな鯉
この日、和彦は全く一人で一日を過ごして下校した。誰とも会話しないのは、人見知りとか、気が弱いからという理由ではなかった。どうせ友達になっても、またすぐに転校を繰り返すので、積極的に交流を深めるような行動が無意味だと思っているからである。
帰宅してからも、父親ともあまり会話はなく、スマホをいじるだけの毎日だった。そんな単調な日が一週間続けばいい方だ。と言うのは、大体2~3日もすると、自分にちょっかいを出して来る面倒な生徒がいるからである。今までも転校する度にイジメに遭って来た。
残念ながら誰とも接しない日は、三日続かなかった。水曜日の放課後、掃除当番が回って来たからだった。
「おい、新入り。掃除はお前に任せたぜ」
そう言って、モップを押し付けたのは、内田慎司だった。
「俺たちの分も頼んだぜぇ」
内田は和彦に顔を近付けてそう言ったが、まるでキスでもするんじゃないかと思うほどの至近距離で威嚇して来た。
「・・・・・・」
和彦は相手とは目を合わせず、黙ってモップを受け取ろうと手を伸ばすと、
「へっへへへ」
内田は笑って、モップを床に落とした。和彦は一瞬ムッとしたが、我慢するしかなかった。そしてかがんでモップを拾おうとすると、不意に内田の膝が和彦の顔面に、ガツン!と蹴り込まれた。
「ハハハハハ。悪りィ悪りィ。突然しゃがむから、膝が当たっちゃったでしょう。気を付けてよぉう」
その様子を見ても他の生徒は何も言わなかった。皆この内田という生徒を恐れているようだ。和彦は何も言わずに、モップを拾い上げて、床を磨きだした。
「おい、行くぞ」
内田がそう言うと、他の生徒は和彦のことをチラッと見た後、内田の後に付いて帰宅し始めてしまった。教室に一人取り残された和彦は、悔し涙を我慢しながら掃除を続けるのだった。
やがて掃除は終了したが、ゴミ箱がいっぱいになっている。
(ゴミ置き場に捨てに行けばいいのかな?)
そんなことを考えていると、
「ご苦労様、皆はもう帰っちゃったの?」