池の外の惨めな鯉
伊織が(何が問題なの?)と聞きたげに言った。
「うん、エサを撒くと、我先にって集まって、そのうちバシャバシャ折り重なって暴れ出す」
「それが面白いと思うがな。でも言われてみれば、馬鹿みたいにパクパクと餌をねだる姿に虫唾が走る気もするな」
「でしょ、野生じゃないから窮屈な池で飼いならされて自由がない上に、エサくれエサくれって」
「なんか、この町の労働者に似てるな」
伊織がそう言うと、和彦は、
「外に出たいんだろうな」
「出ても生きていけないぜ。また他の池に入れてもらうしかないんだ」
「なんか、惨めなやつらだな」