池の外の惨めな鯉
「誰かの悪戯じゃない?」
「絶対そうよ」
「なんでこんな事しやがんだ?」
「誰の仕業だよ」
教室に入ると、クラス中がザワついていた。今朝、中庭の池の鯉が全部死んで浮かんでいたというのだ。
「誰か、池に毒でも入れたんじゃないか?」
そうつぶやく生徒の声に、和彦は反応した。
「毒?」
それを聞いても周囲の誰も何も反応してくれない。
「皆殺しだぜ」
(毒って言えば、まさか、伊織君ってことないよな)
「オッス。お前がやったのか?」
そこに突然現れたのは、他でもない桐生伊織だった。
「え?え?え? 何言ってんの?」
和彦は困惑した。犯人かもしれないと思った伊織からそう問いかけられて、和彦は戸惑いを隠せなかった。
「なんだ? 何慌ててるんだ? まさか本当にお前がやったんじゃないだろうな」
「ちがうよ!」
「鯉が嫌いだって言ってただろ」
「確かに気持ち悪いけど、殺す方がもっと気持ち悪いでしょ」
「そりゃそうだ」
笑いながら話す伊織を和彦は注意深く観察していたが、彼に怪しそうな素振りはなく、思い過ごしかと安心した。
「さっき校門のところで、中西先生と話してただろ」
伊織が明るく聞いてきたので、その直前のカツアゲは見ていなかったのだろうと察しがついた。
「うん、今日も内田にお金取られたんだ」
「え? またかよ! 何回目なんだ」
「三回目だよ」
内田も今、教室の入り口の柱にもたれながら、クラスメートと談笑している。
「お前もよくそんなに金が続くな」
伊織は遠くの内田を睨みながら言った。