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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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池の外の惨めな鯉

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「おう、昨日先生にチクりやがったな。今日、呼び出されて説教されたじゃねえか」
和彦は立ち止った。後ろを振り向いて伊織の方を見たが、彼はそれに気付かず、向こう岸を歩いていく。
「いいや、中西先生には何も言ってないよ」
内田が和彦の前まで登ってきた。そして顔を極端に近付けて、
「ファンタとポテチがいいな。なあ、おごってくれるよなあ」
和彦は硬直して何も言えなかった。内田は大柄な生徒だった。いつも一人でいたが、和彦のようなひ弱な生徒には、よくちょっかいを出して来る不良生徒である。
「聞いてんのかよ。おごれって言ってんだよ」
内田は和彦の学ランのポケットに手を突っ込んできた。毎回そのポケットに和彦が小銭入れを入れているのをもう知っているからだ。
「やめて!」
和彦はとっさに身を引いた。内田は一瞬驚いた表情をしたが、すぐさま右手で和彦の顔面を平手打ちした。その様子はコンビニの防犯カメラに映っている。後ろによろめいた和彦は、伊織の言葉を思い出した。
『卑屈になるな』『媚びるんじゃない』
その時、和彦は伊織の存在を感じた。彼が味方に付いていると。
「くそーーーーー!」
和彦は奮起した。そして内田に掴みかかり押し返した。内田はすぐに力を込めて、和彦を突き飛ばしたが、和彦は内田の髪の毛を引っ張り応戦した。
「いててて」
しかし、和彦には取っ組み合いの経験など無く、幼稚な戦法しか出来ない。内田は半分笑いながら、余裕で振りほどいた。
「何しやがる。許さねえぞ」
そう言う内田の顔面を、突然和彦が殴った。掴みかかった勢いのまま後ろに引かず、相手に一息つかせる隙を与えなかったので、その一発は見事に内田の鼻先を捉えた。
「うっ!」
内田が一瞬ひるんで動きを止めた。しかしそれも束の間、今度は強烈なげんこつが和彦の顔面に入れられた。
「ぎゃ!」
さすがに和彦は後ろに倒れ込んだ。そしてそのまま土手の斜面を川の方に転げ落ちてしまった。