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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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池の外の惨めな鯉

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「お前が殴ったから死んだんじゃないか?」
「そんなわけないでしょ。ボク、パワーないし」
「ハハハ、分ってるよ。でも殴っておいてよかったな。それが無かったら、やられっぱなしだったってことだし」
 伊織が言うとおり、和彦は元々腕力に自信などなかったのだが、内田を殴っていた。伊織に影響されての行動だったが、その仕返しも十分に受けてしまった。毎回いびられ、金品を奪われる和彦に対して、伊織がしていたアドバイイスは、「絶対に媚びるな」だった。
「でも、まさか死ぬなんて。一体何があったんだろう?」
「それを望んでたんじゃないのか?」
「そう思ったとしても、現実にそんなことが起こるなんて」
「なんでも思ったようにしか、ならないもんだけどな」
「思ったようになるはずないじゃないか」
「俺はいつも思ったようになる」
涼しい目でそう言い切る伊織に、和彦は暗闇のカラスを見るときのような、ある種の寒気のようなものを感じるのだった。

 昼休みの後、内田の死について、講堂で全校集会が行われた。校長の説明の後、養護教師から心のケアについての話があり、皆静かに耳を傾けていた。前方に立つ中西由貴は、全生徒を見渡して和彦を見付けると、少し眉を寄せた。和彦が内田からいじめられている事実を知っていたからだろう。それから暫く、心配そうに和彦の様子を見守っていた。
 伊織が中西教諭の視線に気付くと、和彦の脇腹を肘で突いて、小さな声で言った。
「中西先生、お前のことを見てるぞ」
和彦はそれを聞いて、中西由貴を見た。すると目が合った中西は、咄嗟に視線をそらしたのだった。
「ほらあれは、お前が怪しいって思ってるんじゃないか?」
「え、どうしてだよ」
「だって、お前がこれまでの仕返ししたって、考えるのが普通じゃないか」
「普通そんなふうには考えないよ」
「ならいいんだけどな。そう言や、今週末、先生の試合があるんだろ」
「うん。ボクは剣道部に入るように誘われてるから、試合にも応援に来てほしいって」
「ふ~ん。そんなもん、面白くもなんともないけどな」