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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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池の外の惨めな鯉

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(ま、親が飼ってるんだろうから、関係ないよね)
そう思ったが、実は鯉の変死の原因は伊織にあるんじゃないかと、疑ったりもしていた。それくらい彼は、本性が見えにくい生徒だったのだ。
 伊織が玄関を開けようと手をかけたが、そのガラス戸には鍵がかかっていた。
「そうだった。今日は親がいないんだった。ちょっと待ってて」
そう言うと伊織は、庭の方へ回り込んで、家の裏に消えていった。和彦は池の鯉を見ながら、噴水の水音がうるさいなと思って、暫く待っていると、玄関の奥でドタバタと音が聞こえてきた。そして、庭の方から縁側の引戸がガラガラと開けられる音がした。
「おーい、こっち来いよ」
和彦は家の側面を覗き込むと、縁側に立ち、手招きする伊織を見付けた。そこは玄関先から引き込まれた池もある立派な日本庭園に面している。
 伊織がガラス戸を開けた縁側に腰かけたので、和彦もその隣に座った。
「伊織君、こんな家に住んでるんだね。羨ましいな」
「なんでだよ。こんな古臭い家」
「ボクは今まで親の転勤ばかりで、小さなアパートしか知らないから、こんな家に住んでたらどうだろうって思うんだ」
「こんな町に住み着いてる俺の方が不幸だよ。どこにも行けねぇんだ。貧乏な労働者が溢れ返るこんな町からな」
「あ、あぁ・うん」
「あ、すまんすまん。お前の家も貧乏ってこと言ってしまって」
伊織はいつもズケズケと遠慮のない言い方をする。このことは和彦も分かり始めていた。
「うん、いいよ。その通りだよ。でも、親父もあっちこっちの仕事探して、転勤ばっかりだけど、全然生活はよくならないし、どこに行っても惨めなだけだよ」
「池から出られない鯉みたいだな」
「それでボクは、全然友達も出来ないから、やっぱり伊織君がうらやましいよ」
「俺だってこの町に居座ってるけど、みんなすぐ転校していくから、まともに友達なんかできたことなかった」
「・・・伊織君もそうなの?」
「お前に取っちゃ、俺は初めての友達ってわけか?」