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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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池の外の惨めな鯉

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事件④ けんかの翌日



「おはよう」
 金曜日の朝、和彦が廊下でクラスメイトに声をかけた。それを聞いても相手は声を出さず、目で挨拶をしただけだったが、所詮自分はこんな待遇だと諦めている。和彦は教室に入ると、窓際の席まで最短距離を進み、黙って椅子を引いて座った。その間、和彦と目を合わせる生徒もいなかった。
(伊織君、早く来ないかな?)
 和彦は一番後ろの、伊織の席を振り返って思った。しかし授業が始まっても、伊織は登校して来なかった。ところが一時間目が終わると、ちゃっかり伊織は席に着いていた。
(いつの間に入って来てたんだ?)
 和彦は昨日のけんかの原因を謝ろうと考えたが、伊織と目が合った瞬間、席を立つことが出来なかった。桐生伊織はまだ怒った眼をして、和彦を睨んだので、仕方なくすごすごと前に向き直すしかなかった。
 次の授業中、勉強の内容など頭に入って来ない。やはり伊織には謝るべきだと考えた。しかし、彼は怒ると手が付けられなさそうな相手だ。この学校に転校して来て間がない和彦を、一番に受け入れてくれた相手ではあったが、まだ彼の性格をしっかりと把握できていない。ひょっとすると、もう許してくれないかもしれないとさえ思えた。
 その後の休み時間も、和彦は伊織の席に近付くことなど出来なかった。いいや後ろを振り向くことさえ出来ないでいた。

 やがてその次のチャイムが鳴っても、今日の和彦は授業どころではなかった。(もう謝りたい、謝って許してもらいたい)としか、考えることが出来なくなっていた。彼にとって伊織は、唯一の友達と言ってもいい存在だったから、このまま険悪な雰囲気でいたくなかったのだ。
 その授業が終わり、和彦は立ち上がって教室の後ろを振り向くと、もう伊織は席にいなかった。
(いつの間に教室を出たんだろう?)
和彦はその席に近付き、隣の席の女子生徒に声をかけて聞いた。
「ねえ、桐生君どこ行ったか知らない?」
「え? 桐生?」
その女子生徒には、初めて話しかけたからなのか、眉を寄せてあからさまに嫌そうな態度をとった。
「この席、いつからいなくなった?」
和彦は気を取り直して、落ち着いた口調で聞き直した。
「知らないわよ、こんなやつ」
怒ったような表情で返答された。和彦は確かにまだ、このクラスに打ち解けてはいない。しかしこれほどまで邪険にあしらわれるのは、自分が新参者であることに加え、桐生伊織もまた、このクラスでは鼻つまみ者であるという事が想像できた。