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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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池の外の惨めな鯉

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 そこでどういう訳か中西は、竹刀を片手に持ち替え、左手で顎の辺りを押さえた。その瞬間を相手は見逃さず、大きな体ながら一挙動で間合いを一気に詰めた。片手で竹刀を掴む中西には不利な状況であった。
「メ”ェエーーーン!」
大女らしくひと際大声を上げて、面を打つしぐさで突進して来ると、中西は摺り足後退をやめて、ついに後ろ走りになりながら、その攻撃もかわし、自分の竹刀の剣先を大女の喉元に突き付けて、逆に相手の動きを制しようとした。その瞬間、中西の足が止まった。しかし、大女の竹刀は、面に向けて振り下ろさず、剣先だけを下に向けて、前のめりに中西の喉元を狙った。
「突ぎぃぃぃぃぃ!」
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 病院の廊下に剣道部員たちが集まっていた。中西由貴が担ぎ込まれた治療室の前で沈黙を続けているのを、和彦も少し遠くのベンチで見守っている。
 やがて治療室から医師が出てくると、集まっている部員に一言声をかけた。その瞬間、女子生徒は声を上げて泣いた。動揺する部員たちの様子を見て、和彦はその悲劇を悟った。そしてその時、図らずも伊織の言葉を思い出した。

(防具なしじゃ戦えない剣道は、弱者のスポーツなんだ。それを思い知ればいいんだ)

 検死結果は、舌骨が骨折したことに起因する気道閉塞による窒息であった。大女の突きが、中西の喉を捉えた際、不運にも中西の面に着けられた防具の一部が破損して、竹刀が喉に直接突き立てられたのだった。
 これで和彦にはもう、剣道部入部の選択肢はなくなったが、今また伊織が現れるんじゃないかと思うと、なぜか寒気がするのだった。