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孤独という頂点

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 完全に逃げに回ってしまっていたことで、洋二は梨花から逃げてしまったのだ。すでに決意を固めている梨花に対して
「何をしても同じだ」
 と思っていたくせに、結局、何とかしようとして、自分を偽っていた。
 そんな自分が嫌で嫌で仕方がなかった。あの頃が、自分の人生で一番ひどかった時だと思っている。
 それを乗り越えたと言えばいいのか、いや、乗り越えたわけではない。他のことに自分の未来を託そうとし、楽しいことを追い求めようと、まったく違った快楽の方向に目を向けていたようだ。
 快楽など求めても、そこに満足感が得られるわけもない。何をしても、満足できることはない。そんな時、趣味として書き始めていた小説が自分を救ってくれたのだ。
 小説家になるなどという野望は捨てた。しかも、早い段階で捨てることができたのがよかったのかも知れない。
「俺にとって、今の時代は、かつて夢見た世界なのかも知れない」
 と思った。
 当時は、まったく見えなかった未来だったが、今のような気持ちになれることを嘱望していたように思う。その嘱望がいつだったのかと言われると、それがちょうど恭子と付き合っていた、後から思えば、
「波乱万丈の時代」
 と言えるのかも知れない。
 だが、そんな波乱万丈だったからこそ、将来がハッキリしていなくても、希望が持てたのだし、
「絶えず、前だけを見て生きている時期だった」
 と言えるのではないだろうか。
 それが洋二にとって、五十代に至る人生であり、その時に至って、自分の集大成が見えたと言っても過言ではないかも知れない。
「俺にとっての今までは、小説に書くとすれば、数百ページの大作になるかも知れないな」
 と我ながら感じた。
 人生なんて、一口で言えば言い切れると思っている人もいるかも知れないが、決してそんなことはない。逆に自分の人生を本にできるだけの力量を持つことが、自分の人生の集大成なのかも知れない。
 洋二は、子供の頃から孤独が好きだった。
 それが、大学に入って友達ができると、そんな子供時代の孤独が罪悪に思えたのだ。そして、孤独を排除しようとして、まわりに馴染んでいく自分が、上り調子で、
「近い将来、自分が有頂天になれるような気がする」
 と思っていた。
 しかも、その有頂天のその先も果てしないと思えてくる。実際に人生は紆余曲折を繰り返しながらも、何とか踏みとどまって幸せを掴んだことが、自分の有頂天だと思うようになったのだ。
 そのおかげで、結婚、子供を持つこともできて、それこそが、
「男子一生の幸福」
 と感じたのだ。
 本当にそうなのか分からなかったが、その時は本気でそう思った。
 しかし、あっという間にそのメッキが剥げ、離婚に追い込まれ、そこから先、いくら前を見ようとしてももう何も見えてこない。一度失敗した、あるいは、地獄を見たという意識があるからだろうか。二度と上を見ることはできなかった。
 しかし、洋二は今、人生で悟りのようなものを見つけた気がした。それは、子供の頃に感じていたもので、上り調子だと思っていたあの時に感じた、
「孤独感」
 だったのだ。
 孤独というのが、本当にどういうものなのか分からない。しかし、今の自分にとっての癒しは孤独であった。
 人に気を遣うこともなければ、自分だけで生きていけばいい。
「人は一人では生きていけない」
 確かにそうかも知れないが、それを自覚しながら孤独を楽しめるようになったとすれば、それは一種の悟りだと言ってもいいのではないか。
 そんなことを考えていると、洋二は自分のことを、
「やっと求めていたものにたどり着いた気がする」
 と感じた。
 確かに人は、生まれることも死ぬことも選べないが、人生の頂点を自分で決めることができるとも思う。それが分からない人は、人生の頂点というものを考えたことがない人であって、本当は、その時々が頂点だと思っている人もいるかも知れない。
 それはそれで羨ましい人生だ。
 ここに、一人の半生を描いてみたが、作者はこれ以上描くことはできない、なぜならここから先は、未来のお話だからである。
 そう、この男にはモデルがいる。聡明な読者であれば、それが誰なのか、分かることであろう……。

                 (  完  )



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作品名:孤独という頂点 作家名:森本晃次