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正夢と夢の共有

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 少々の心変わりくらいは、ファンにはすぐに分かってしまうというもので、アイドルが舐めていると、ひどい目に遭いかねない。
「アイドルにストーカーをするやつもいるというが、気持ちは分からなくもない」
 と感じている人も少なくないだろう。
 実際に、アイドルのために、いくらでも使っている人がいる。数十万、あるいは、数百という人だっているかも知れない。
「自分の推しの女の子がセンターを取れるのであれば」
 とばかりに、プロダクションもうまく考えたもので、CDの中に、総選挙の投票権を入れて販売すれば、投票権だけを求めて、同じCDを数百枚と購入するファンだっているに違いない。
「センターを取ったら、俺がセンターに押し上げてやった一番の功労者なんだ」
 と思い込み、一気に近くの存在に感じるのではないだろうか。
 そこまでくると、ストーカーのようになったとしても、本人は意識がない。
「俺がストーカー? 何を言っているんだ」
 としか思わない。
 まわりの目が急に変わっても、推しの女の子だけが自分の味方であれば、それでいいという考え方である。
 美月はそんなファンと結婚してしまったこと嫌というほど後悔している。男というのがどういう生き物なのか、初めて知った気がした。AVの男優や監督が優しいだけに、ファンはもっと優しいなどと思ったのは、間違いだった。
 やはり、ファンにとって、アイドルというのは、疑似恋愛の対象でしかない。なるほど、アイドルグループによくある、
「恋愛禁止」
 というのも、こうやって考えてみれば、至極当たり前のことなのだ。
 まるでアイドルをおもちゃか何かと同じで、アイドルの方も、お金を使わせて、事務所を儲けさせ、ファンには淡い期待を抱かせるのだから、やっていることは、
「どの口がいう」
 と言われることだろう。
 しかし、アイドルをやる以上、それくらいのことを覚悟しておかなければ、先が続かない。その代表例が、美月というわけだ。
「そういえば、死んだあの人と、別れの時には喧嘩になったけど、それは、私の覚悟について言っていたような気がするな。彼の言っていることは間違っていなかったんだ」
 と感じた。
 晴香には、美月よりもそのことは分かっているつもりだった。
 だから、AVからアイドルに転身した時も、そんなに違和感がなかったのだ。
 晴香は最近、
「私は正夢を見るんだ」
 と思っていたところで、今回、みのりが、
「一緒に泊まってほしい」
 と言い出した。
「話は尽きることなどないはずだから、朝までずっと起きているでしょうね」
 と、言っていたみのりが、先に眠くなったようだ。
「なんだか、眠くて仕方がないの。このまま眠ってしまいそうなんだけど、いいかしら?」
 と言い出した。
「ええ、いいわよ。私もすぐに眠くなりそうだから」
 と言ったが、本当は眠気はほとんどなかったが、相手が眠ってしまうと、自分も自然と睡魔に襲われ、眠ってしまうことが分かっただけに、それ以上は何も言わなかった。
 実際に睡魔に襲われてくると、すぐに夢を見ているようだった。
 それが夢の世界なのか、現実なのか分からなかったのは、
「眠っているはずだ」
 という意識があるにも関わらず、同じ部屋のまだ眠る前と同じだからだ。
 すると、眠っていたはずのみのりが、部屋の外から帰ってきた。
「お手洗いにでも行っていたの?」
 と聞くと、
「ええ、そうだと思うんだけど、気が付くと、この部屋の扉の前にいたのよ。どこから繋がっているのか、意識がハッキリしない感じがするのよ」
 というではないか。
「私も、夢を見ているつもりだったんだけど、眠る前の続きにしか思えないので、夢を見ているという感覚はないの。だけど、起きているという感覚もなくて、おかしな感じなのよね」
 と、晴香がいうと、
「うんうん、私も同じ。今までに似たような感覚を味わったことがあったような気がしたんだけど、どこでだったのかしらね? ただ、その時にも誰か他に一緒にいたような気がしたんだけど、思い出せないの。でも、一つハッキリと感じたのは、もう一人の自分を見たような気がしたことなのね。その瞬間に目が覚めた気がしたんだけど、その時、もう一つ感じたのが、誰かと夢を共有しているような感じがしたことだったのよ」
 というではないか。
「夢の共有? 私もそれは感じたことがあります。確かにもう一人の自分がいたような気がしたんだけど、それがまるでドッペルゲンガーのような気がして、ゾッとしたのよ。その時のゾッとした気持ちが強すぎて、一瞬にして目を覚ましたのね。でも、ドッペルゲンガーだと思ったけど、それが夢だったということで、本当は忘れてしまいたい夢だったんだけど、忘れることができなかったの。それがきっと、誰かと夢を共有しているからではないかと、私は思ったんだけどね」
 と、みのりは言った。
「ドッペルゲンガーって聞いたことがあるわ」
 と、どういう話だったのか、思い出そうとしていたのだった。
 晴香は、最近、
「正夢」
 というものを意識するようになった、
 それは、自分のマネージャーに、正夢についての話を聞かされた時だった。
「私ね、最近正夢というのをよく見るような気がしているのよ。特にマネージャーになってからね。そしてそれを実感したのが、みのりさんのマネージャーをしている美月さんと話をした時だったの。彼女は、
「自分が正夢を見たおかげで、みのりをストーカーから助けることができた」
 と言っていたそうだ。
 みのりの言っていたストーカーの話は本当だったのだが、まさか美月が陰で助けてくれていたとは思ってもいなかっただろう。
「そういえば、私も最近、正夢のようなものをよく見るんですよ」
 と、晴香がいうと、
「そうね。私もきっとあなたならそうじゃないかって思ったの。あなたが、AVから、こっちの世界に転身してきて、あなたを見た時、私はあなたなら立派なマネージャーになれるって思ったの。だから、今のあなたは、これからの自分を見つめる一種の通過点ではないかと思うのよ。そしてね、正夢というのは、一種の夢の共有をしていることから成立するものなのよ。つまり、夢を共有できないと正夢は見れないし、正夢を見ないと、夢の共有はできないということ、だから、どちらか単独はありえないのよ」
 と、マネージャーは言っていた。
「じゃあ、その両方を感じていると、マネージャーになれるということ?」
「そうね、逆にいえば、その両方がないとマネージャーではやっていけないということ。人にはそれぞれ、天職というものがある。私も美月さんも、そしてあなたにも、その素質があるということなの。だから、あなたには私や美月さんを見つめていてほしいの。するといつかきっと、夢を共有できるはずよ。その時、あなたは、きっといいマネージャーになっているはずよ」
「マネージャーって、いったいどういう仕事なのかしら?」
「それはね、あなた自身が、正夢を見て、そして、その夢を共有する相手を感じることで見えてくるものだって思うの。私や、美月さんがそうであったようにね」
 と言って、マネージャーは穏やかな表情になった。
作品名:正夢と夢の共有 作家名:森本晃次