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オオサカタロウ
オオサカタロウ
novelistID. 20912
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Loot

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 とりあえず、簡単な仕事から始めた。一件目は知り合いで、シメてくれという依頼をこなしつつ、そいつの財布から臨時収入を得た。二件目は見た目で決めたが、正直失敗だった。三件目は下調べをして、相手が金を持っているということを確認してから襲った。ヤバい金をヤバい奴から取るのが一番『効率』が良いと気づいてから、ようやく全てが軌道に乗った。今はもう、財布にいくら入っているか意識していない。
 音松が指を鳴らしながら考えていると、寺司が公園の近くにプレジデントを停めて、言った。
「岡田の家がダメなら、どうする?」
 音松は肩をすくめた。答えを探すように辺りを見回していたが、初めて気づいたように、たこ焼き屋の屋台を指差した。
「腹減ってるしな、ちょっと買ってくるわ」
 寺司は、音松が指した方向に目を向けた。ピンク色の旗が風で揺れていて、遠目ではよく見えないが、屋台の中にエプロンを巻いた店員がひとりいる。いつから出ていたのかも知らないぐらいに、今まで全く気にも留めなかった。しかし、ピンクの旗というのは独特だ。寺司がそれを口に出そうとしたとき、加山が言った。
「旗、普通は赤じゃないか?」
「確かに、なんでピンクなんだろーな」
 音松が笑いながら助手席から下りると、歩いていった。寺司はプレジデントのシフトレバーをパーキングに入れて、サイドブレーキをかけた。音松が何をしようとしているかは、その後ろ姿を見れば大体分かる、今は、暇つぶしの時間だ。寺司は後部座席を振り返って、加山に言った。
「あいつは、昔からあんな感じなの?」
「昔より酷くなってるよ」
 加山は目を合わせることなく言った。言葉は荒っぽいが、あそこまでは酷くなかった。妙に人にちょっかいをかけるようになったのは、三人組になってからだ。自分がリーダーだということを、二十四時間ずっと確認しているみたいに。寺司は小さくため息をつくと、助手席の窓を下げた。屋台の前に音松が立っていて、あれこれ注文を付けているのがここからも聞こえる。
「お前、両手使えや、なあ?」
 寺司は、たこ焼き屋の屋台に視線を向けた。店員は、音松の背中に隠れて見えない。音松の文句を信じるなら、片手で適当にたこ焼きを容器へ放り込んでいるのだろうか。加山
がうんざりしたように後部座席にもたれかかり、呟いた。
「ぎゃーぎゃー騒ぐなよ……、余計腹減るんじゃないの」
 寺司は声に出すことなく笑うと、音松のクレームに耳を澄ませた。
「こっちは腹減ってるから買いに来てんだよ、あんたはちょっとでも早く用意しようとか思わないんですかって、聞いてんだよ」
 加山のため息が大きくなり、寺司も眉間にしわを寄せた。音松は、理屈っぽいアホだ。どうしようもない理屈にどんどん贅肉がついて、クソみたいな中年になるのだろう。
「反面教師にしなきゃな」
 加山が呟き、寺司は初めて意見が一致したように、深くうなずいた。
「効率が悪すぎる。いくら店員が不器用でもな」
 たこ焼きを持った音松が戻ってきて、助手席に乗り込むなり言った。
「もたもたしやがってよ」
 寺司は返事の代わりにシフトレバーをドライブに入れて、サイドブレーキを解除した。目と鼻を刺すようなたこ焼きの匂いが車内に広がる中、公園に面した道路をぐるりと迂回すると、屋台の後ろへ回ったところで音松に言った。
「何もしないのか? その容器、投げてやったら?」
 たこ焼きを食べ終えた音松は、爪楊枝をくわえたまま首を横に振った。
「いや、そこまではしねーわ」
 寺司は再びアクセルを踏みながら笑った。じゃあ、最初から何もするな。
    
 理恵は、隠れていた照明柱の影から顔を出して、小走りで屋台へ向かった。
「シンちゃん。あいつ、なんなの? ウザすぎ」
「ヤンキーだよ。最近よく見かける」
 シンちゃんは爪楊枝を一本取ると、まだ調味料が何もかかっていないたこ焼きに刺して、理恵に差し出した。理恵は歯を見せて笑うと、言った。
「くれるの? わたしがプレーン派だということも知った上で? サービスいいねー、この屋台は。ありがと」
 大切そうにたこ焼きを食べる理恵を見て、シンちゃんは小さく息をついた。
「いつからいたの?」
「ついさっきだよ。びっくりするよね。やっとるかねーって声かけようとしたら、やられてんだもん」
 理恵は制服の襟についた埃を払い、そこに蜘蛛の巣が絡まっていることに気づいて顔をしかめた。さっき照明柱の後ろから様子を窺っていたときに、ついたのかもしれない。シンちゃんが屋台から出てきて、言った。
「理恵、背中に蜘蛛いるわ」
「は? 取って、お願い!」
 理恵が後ろを振り返ろうとしながら騒ぎ始め、シンちゃんは背中をぽんぽんと叩きながら笑った。しばらくして、本当は背中に何もいないということに気づいた理恵は、鞄を振ってシンちゃんの脇腹に当てた。
「天罰、当たってね」
「さっきのヤンキーで十分だよ」
 シンちゃんは屋台の中へ戻った。高校三年生、最後の冬休みが近づいている。理恵は幼馴染で、小学校から知っている。別々の高校に上がって接点は消えると思ったが、携帯電話のおかげで今でも友人関係は続いているどころか、中学校のころよりも会う回数は増えた。理恵は鉄板の熱気から逃れるように目を細めながら、言った。
「学校行きなよ。サボってまでバイトって、変だって」
 シンちゃんは肩をすくめた。別に学校が嫌いなわけじゃない。ただ、今日はもういいかと朝から決めてしまっている日があって、その声に従っているだけだ。早々に見切りをつけて自主退学したタモツが羨ましく感じるときもある。悪友だが、友達であることに変わりはない。理恵はタモツを毛嫌いしていて、出くわすと露骨にハズレを引いたと言いたそうな顔をする。
「おれは、タモツみたいに退学はしないよ」
「当たり前だよ。すごいことみたいに言わないで」
 理恵が出入口を塞ぐようにぴしゃりと言い、シンちゃんは肩をすくめた。タモツは犯罪者の仲間入りが待ちきれない様子で、双子の兄が悪い手本になっている。もちろん、理恵の言いたいことは分かるし、タモツが『うまい話』を持ってきても、間違いなく断るだろう。それぐらいのモラルはある。ただ、友達である以上は、いくら毒を含んでいるとしても全く会わないわけにはいかないのだ。会話のキャッチボールを待たせていることに気づいたシンちゃんは、言った。
「今日はな、学校の気分じゃない日だったんだよ。社会勉強の日だな。ヤンキーに絡まれる日だ」
「それと?」
 理恵が言い、シンちゃんは首を傾げた。
「他になんかあったっけ?」
 シンちゃんが焦げつきかけた列のたこ焼きを次々にひっくり返していると、理恵は言った。
「はあー、不安だわー」
「何が?」
 シンちゃんが言うと、理恵はわざとらしく、声のトーンを落とした。
「あのヤンキーに目をつけられてたら、どうするの? 音松家はヤバいらしいよ」
「音松っていうのか。知り合いなの?」
 シンちゃんが言うと、理恵はうなずいた。
作品名:Loot 作家名:オオサカタロウ