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逆さに映る

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 と言って、表にいる自分は、必死になって妹をまさぐった。
「お兄ちゃん」
 と、いちかも、彰浩にしがみついてくる。
 その時、
「待てよ?」
 と感じた。
 いちかも、今の彰浩のように、表に出ているのは別の人間で、本当は彰浩のことをハッキリと分からずに探し求めている自分を感じていたのかも知れない。
「お兄ちゃんの瞳に私が映っているなんて言ったけど、あれはウソ。本当は分かるわけないのよね。そういえば、私もお兄ちゃんも、少しは罪悪感から逃れらっるかも知れない」
 と感じていた。
 しかし、実際にこれから訪れるであろう、
「近親交配」
 という時間であるが、そこに対しては一縷の背徳心も、罪悪感もなかった。
 いちかも、自分の気持ちの中で、近親交配というものに対して、
「一体何はいけないというのか?」
 ということを感じていたようだ。
 その考えは奇しくも彰浩とほとんど変わりのないものだった。
「避妊さえしていれば、何が問題なものか」
 ということであった。
 いちかの場合はさらに冷めた考えを持っていた。
「パイプカットさえすれば、子供が絶対に生まれないようにさえしておけば、いくらでも近親交配をするのに、何の問題があるというのだろう?」
 と思っていたくらいだ。
 ただ、そうなってくると、結婚できない人で、つまりは、相手に配偶者がいるなどした場合、絶対に妊娠などしないということが確約されていれば、それで何が問題なのかと言えるのではないかという、明らかに孝弘と同じ考えが根底にあったのだ。
 だから、妊娠しないように、しっかりとお互いに準備しておけばそれでいい。いちかは彰浩を愛しているのだ。
 いちかのその思いは、彰浩よりも強かった。
「お兄ちゃんは、引っ込み思案で、なかなか行動に移さないけど、移すとその行動力には節操がない。抑えが効かないと言ってもいいのだろうが、そんな状態で、よくここまでこれたものだ」
 と思うくらいで、そういう意味では、彰浩が入社してすぐの苛めに遭っていた時期があったことは、いちかにとっては想定内のことだった。
 いちかは、彰浩が思っているよりも、彰浩のことを分かっていた。
「お兄ちゃんのことは、自分のことを感じようと思うよりも簡単に分かるのよ。きっと自分と理解しようと思った時の、一つの段階にすぎないと言っても過言ではないかも知れない」
 と、いちかは感じていた。
 彰浩は、いちかがそこまで考えているとは知らないまま、自分の抑えが聞いていないことを危惧しながら、いちかの身体を貪っていた。
 だが、彰浩のコントロールはいちかができていた。身を任せているつもりで、いかに相手に違和感を感じさせないかのように振る舞えるだけの技量がいちかにはあった。
 それは相手が彰浩であろうがなかろうが関係のないことで、これが、いちかの才能であり、長所でもあり、短所でもあると言ってもいいだろう。
 彰浩としては、いちかは、
「自分の前では、どんなことであっても、本音で向かってくれて、そこにはウソもなければ、言い足りないこともないに違いない」
 という、最高級のイメージを抱いていたが、いちかというのは、そこまでの聖人君子ではないのだ。
 しかし、彰浩のことだから、これくらいのことを考えているということくらいは、ちゃんと読み通しだということは分かっていたのだ。
「お兄ちゃん、私は自分の気持ちに忠実になりたいの。そのためには、お兄ちゃんの考えていることが知りたい」
 という。
 彰浩は、自分が近親交配について、いい悪いの判断はあくまでも、妊娠することにあるかないかだと思っていること。
 法律的には結婚はできないが、愛し合うことは問題ないと思っていること。もちろん、そこには、倫理的な問題は残っていると思っていること。
 そして、自分がいちかを好きなのは、いちかの瞳に自分の顔が映っていて、いちかがいうように、上下も逆さまに写っていること。これはいちかが最初に言い出したから気付いたことではあるが、本当は前から分かっていたことだということを、自分で悟ったということ。
 それらを鑑みると、やはり自分がいちかを愛していて、その思いを隠すことはできないと思っていること。
 それらの話を聞くと、いちかは目から一粒の涙が溢れていた。
「お兄ちゃんの今言ってくれた言葉、私も同じ思うだよ。二人は愛し合うべくして生まれた二人ではないかと思うの。私もお兄ちゃんもすでに禁断の果実は食べているのよ。私は禁断の果実は、食べてはいけないものではなく、ある時期がくれば皆食べるものだと思っているの。その時期をお兄ちゃんも私も、ちゃんとした時期に食したことで、すでに恥じらいや善悪を知っている。知っているからこそ、近親交配について真剣に考えられるようになったんだって思う。だから、お兄ちゃんを愛してるし、私のことも愛してほしい」
 というではないか。
 彰浩も、自分から何かを言いたいと思っていたが、口からその言葉は湧いてこない。ただ、いちかを抱きしめるだけだ。
「いいんだね?」
 そんな言葉もいらないはずなのに、つい言葉に出てしまう。二人はまるでドラマの主人公になっていた。
 実際に抱き合っていると、気持ちは次第にもう一人の自分たちを想像し、他人事のように感覚がマヒしてきた。
 この状況の時、善悪への意識はなくなり、やっと禁断の果実の効果が出てくる。
「まさかとは思うが、禁断の果実というのは、善悪を承知の上で、悪だと思っていることを、どれか一つ善だと思わせる効果のあるものではないか?」
 と思うと、目の前のいちかの瞳に映っている彰浩の姿が、今度は左右対称ではあるが、決して上下対称ではなかった。
 本当はそれが当然のことであるはずだと分かっているはずなのに、いまさら驚かされることになろうとは思ってもいなかったのだった……。

                 (  完  )



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作品名:逆さに映る 作家名:森本晃次