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空墓所から

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 結局、右脚は骨折していたことが判明し、僕は数カ月ほど入院した。入院中、自分なりに隣村の人々の指の謎について、本などを取り寄せて調査して考え込んでいた。

 あの村は山の斜面の田畑を耕している農家が多い。それ故、土地の質が悪い上に狭く収穫量にも限界がある。ということは、平野部の田畑以上に一度の不作が命取りになる可能性が大きいわけだ。だとしたら、村民としては何があっても不作は許されない、作物をつまらないトラブルで枯らすことは何があっても防ぎたい。そう思うはず。

 ここで、あの村の昔の民は『ならば、益虫を増やせばいい』と考えたのではないだろうか。作物をかじってしまう害虫を駆除してくれるような肉食昆虫が村に大量にいれば安泰だ、と。だが、その肉食昆虫━━とんぼを増やす方法がわからない。害虫を増やせばそれを食べにとんぼは来てくれるかもしれないが、それでは本末転倒だ。

 そこで僕が思い出したのは、とんぼを捕らえたときに指先を近づけると止まってかみつくということだった。ときに彼らは、その肉食昆虫のどう猛さで人の皮膚をも食い破り、非常な痛みを与えてくる。飢えているとんぼなら、人間の肉でも平然と食すことだろう。

 あの村の人々は、作物を守るために益虫であるとんぼを村内につなぎとめようと思った。そして、その代償を、利き手と逆の手の人差し指と取り決めたのかもしれない。ちょうど僕が人差し指を掲げてトンボを捕まえていたように。その習俗が村内に存続したせいで、彼らはみんな左手の人差し指だけ骨がむき出しになったのではないか。

 でも、この仮説を確かめる術はすでにない。僕は骨折したときに両親にこっぴどくしかられて、以後、その村に行くことを禁じられた。それに、30年を経た今、もうあそこは廃村となってしまっている。付近の図書館で文献でも漁れば、何かわかるかもしれないが、秘密のままのほうがいいことも世の中にはあると思う。


作品名:空墓所から 作家名:六色塔