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空墓所から

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「ガキン」

 人の頭部とは思えない固い音が響き渡り、くわの刃は折れ曲がる。その感触を手に確かめ、驚いたであろうその瞬間に、農夫はうつぶせにぶっ倒れた。

 どうにか自由になれた俺は、農夫のすきをついて土から抜け出していた。そして、自分の頭の代わりになりそうな漬物石程度の石を、元いた場所に置いておき、自分はこれまた武器になりそうな石を持って影で待ち伏せた。薄暗くなってきた夕方に農夫が俺の頭の代わりの石をたたき割ろうとした直後、俺は背後に躍り出て、農夫の後頭部を力いっぱい殴りつけたというわけだ。

 どうにか当面の危機は脱した。そう思い、安心したら途端に眠くなる。急激に力が抜け、俺は農夫が作った畝に突っ伏すように眠りこけてしまった。


 ハッと気付く。まぶしい光と土の匂い。やはり目の前には土壌。

 そこで、俺はその土壌をくわでせっせと畝に変えていた。……もちろん、列の最後に行われる、少し大きめの「トマト」をぶっつぶす作業も忘れることはなく。

「おーい」

一番左の奥から助けを呼ぶ声が聞こえる。ちっ、最後のやつが目覚めやがったか。まあ、どちらにしても頭をかち割られることに、変わりはねえんだけどな。

(だが……)
俺は二番目の頭をぶっつぶし、次の列で畝を作り出す。その先には、これまた目が覚めた女が必死に助けを求めている。

 俺はそんな光景に既視感を覚えながら、泣き叫ぶその女の頭をぶっ潰した。

 最後の列のあいつがなんか小細工をしてきたような、なんか小細工をされたような……、そんなことを感じながら、俺は次の列へと向かった。


作品名:空墓所から 作家名:六色塔