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空墓所から

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 そうしてさらに月日は流れ、中学3年生も最後の日となりました。

 この日の前日、私はベッドの中でいろいろと考えを巡らせていました。中学という3年間が終わってしまうことの悲しさや不安、これから美由ともっと深い仲になれるといううれしさ、私と美由が恋仲になったらどんなことをしようかというワクワク。それらを想像すると夜も寝付けず、気が付くと東の空が白んでいたのです。あわてて眠りにつきましたが、そのせいで目覚ましに気付かず、私は不覚にも中学の3年間で唯一の寝坊をしてしまったのです。

 懸命に走って学校へと私は向かいます。しかし、どう考えても数分くらい間に合いません。こんな大切な日に遅刻をしてしまっては、中学生活で唯一頑張った皆勤賞を逃してしまいます。それだけじゃありません。大切な美由との約束が守れなくなってしまいます。そうなってしまったら、美由は私の元を離れていってしまうかもしれないのです。
 私は焦燥と全速力で走っているのとで汗まみれになりながら、どうにか校門をくぐり抜けました。既に残り時間は1分を切っています。このままでは、教室に入るまでに始業のチャイムが鳴ってしまう。もはやこれまでと観念し、息を整え、げた箱で靴を履き替えたとき、異変に気がついたのです。

 時刻になったのに、チャイムが鳴っていない。

 教室に着き、自席に着いた私はもちろん、他の生徒もこの異変に気付いたようでした。職員室にいる先生がたもそれに気が付き、一人の教師が鐘のある時計塔まで様子を見に行きました。それをよそに、私たちはホームルームを終え、卒業式に出席するため体育館に移動します。

 すんでのところで遅刻を免れたことでホッとしていた私は、体育館で着席をしたときに初めて気が付いたのです、美由がその場に居ないことに。そして卒業式の間も、私は美由が居ないことばかりをしきりに気にしていました。

 式が終わって教室に戻り、美由はどうしたのかクラスメイトに聞こうと思ったその時でした。そこで初めて、最後のホームルームにやってきた担任の教師から、美由が亡くなったことを伝えられたのです。

 私は耳を疑いました。せっかくチャイムが鳴らないという奇跡が起きて皆勤賞を手にできたのに。肝心の美由は、もうこの世にいないのです。もう美由には永遠に会えないというのです。その瞬間、私は気を失ってしまい、それ以降のことを全く覚えていません。


 ……これから先は、全てが終わって落ち着いてから聞いた話です。

 中学生活最後の日、私用で先に登校していた美由は、校舎の窓からなかなかやってこない私を待っていたそうです。そして、あわてて走ってくる私を目に止めると、時間を確認し、始業のチャイムに間に合わないとすぐさま悟ったのでしょう。彼女は一目散に教室を出ていったそうです。
 美由は時計塔へと向かい、始業を知らせるチャイムが鳴る寸前、自らの身を時計の動力源である二つの回転する歯車の間に差し出し、時計を止めることで鐘の音をも止めたのです。

 様子を見に行った教師が時計塔にたどり着いたときは、もう既に辺りは血の海で、そこには、腹部から半身を割かれた美由が静かに横たわり、鮮血を浴びた歯車はその動きを止めていたそうです。

 また、美由の母いわく、美由は1年ほど前から病魔に侵されていたらしく、中学を出たら入院して闘病生活に入る予定だったそうです。彼女の肌が、だんだんと透けるように青白くなっていったのはそのせいだったのでしょう。このため、美由の死は病を苦にしての自殺と片付けられたのです。
 でも、本当にそうなのでしょうか。美由は、もしかしたら私の皆勤賞のために自らの命をなげうったのかもしれないのです。いや、病を苦にしていた可能性も全くないわけではないでしょう。恐らく、その両方というのが真実なのかもしれません。しかしどちらにしても、私と美由、二人が交わした約束事とそこから紡ぎ出されていく未来は永久に葬られたままになってしまい、私の手には、あの日、遅刻したことに対する罪のように、皆勤賞だけが残されたのです。

 私はショックで、その後ろくに高校にも行かず、しばらく荒れた生活を送っていました。その後、改心し、こうして彼女の菩提を弔う毎日を送っているというわけです。


作品名:空墓所から 作家名:六色塔