空墓所から
67.公園にて
「公園に来ましたね」
「うん。公園だな」
「やっぱり、天気がいい日の公園はいいですよね……」
「ああ、この世の真理だよな……」
「近所の子どもたちも元気いっぱいに遊んでいますねえ」
「そりゃあ、天気のいい日に公園で元気じゃない子がいたら、親御さんか誰かを呼んだほうがいいレベルだからな」
「じゃあ、天気のいい日に公園で元気じゃないおじさんがブランコに座っていたらどうでしょうね?」
「うーん。人生、つらいこともあるだろうけど頑張れよ〜って思っちゃうな」
「優しい人はそう思ってくれるかもしれませんが、多分、怪しい人物として通報されちゃうんじゃないかと思いますねえ」
「通報されちゃうかあ、やっぱ」
「同じ場所で同じように元気がないのに、子どもとおじさんでは対応が天と地ほどの違いがあるんですねえ」
「あんまりそういうことは大きな声で言わないほうがいいと思うよ。真実かもしれないけど」
「要するに何が言いたいかっていうと、天気の良い公園は本当に素晴らしい、それが言いたいのです」
「確かに。その発言は真理だと思うわ。元気のないおじさんには申し訳ないけれど」
「そうでしょう、そうでしょう。えっへん」
「なんでおまえが偉そうにするんだよ。偉いのはお日さまと公園だよ」
「おじさんと子どもは偉くないんですか」
「おじさんは頑張ってて偉いし、子どもも偉いよっ!」
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「親御さんたちも、のんびりと井戸端会議をしていますねえ」
「子育てに対する不安も多いだろうし、先達や同じ立場の方にいろいろとお話をうかがいたいんだよ」
「1歳になるうちの子の大喜利が面白くないんですが、どうしたらいいでしょうか? とか?」
「むしろ1歳で回答できるならすごいわ」
「でも、『こんなイヤイヤ期はイヤだ』ってお題で、『お題がすでにイヤイヤ期だ』って斜に構えた回答をしてくるんですよ」
「1歳でそれならむしろ才能あるわ」
「才能、ありますか。天下取っちゃうレベルですか?」
「お笑いの養成所に行かせるかは親御さん次第だけどな」
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「ハトも、たくさんいますねぇ」
「いるねえ」
「こうやってたくさんのハトを見てると、細いのも太いのもいて、ハトもなかなか個性的ですね」
「ああ、白いのや灰色のもいるし、やけにぼっさぼさのやつもいるな」
「ところで、ハトって聞いたらひらがな、カタカナ、漢字、どれを思い浮かべます?」
「うーん……、カタカナのハトかなあ」
「なんか、ぼさぼさのやつはひらがなのはとって感じ、ありません?」
「ああ、なんかちょっとわかるかも」
「伝書鳩とかレースに出ている鳩はどことなく漢字っぽいイメージ」
「うんうん。お堅い感じね」
「で、残りはみんなカタカナのハト」
「それ大丈夫? ひらがなのはと、いじめとかされてない?」
「大丈夫ですよ。平和の象徴であるハトの世界、ハト界に、いじめなんてものはありません」
「でも、なんか漢字の鳩勢がその他二つを下に見ていて、カタカナのハト勢もひらがなのはと勢を見下してそうな雰囲気が……」
「そんなことはありませんよ。ハト界も多様性を尊重していこうって流れになってますから、ハトたちもお互いを認め合ってやってますよ」
「ハト、賢いなあ」
「ぼさぼさで生きる自由がハトにはある!」
「…………」
「ぼさぼさ、イズ、フリーダム!」
「それはなんか違う」
「違うか〜」
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「でも、なんでぼさぼさなはとが下だと思ったんですか。決めつけじゃないですか」
「え? いや……、なんとなく」
「むしろぼさぼさのほうがイケてる、みたいな可能性もありませんか」
「あ、それはあるかも」
「周囲のハトたちがみんな「お、今日のボサ感いいねえ」とか言って褒めそやしてる可能性もあると思いますよ」
「ボサ感……。」
「そんなハトの様子を見て音楽ライターもレビューに取り入れるかもしれませんね。「ボサ感のある画期的なアレンジだ」みたいな」
「……ボサノバ感をボサ感ってこと? 言うかなあ」
「もしくはダジャレ好きな人が「お、今日もボサ感ですね〜」って感じで」
「そっちのほうがまだありそうかな」
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「しっかし、そのシステムだとハト人口の90パーセントくらいがカタカナのハト勢になっちゃうな」
「ん? 人口?」
「あ、人じゃないか。ならハト人口じゃなくてハトハト口だ」
「いや、単純にハト口でいいんじゃないですかね」
「うん、そうだね。ごめん」
「でもハトハト口ってなかなかいい語感ですね」
「ハトハト口、ハトハト口……」
「それに『はとはとこう』って一度ひらがなにすると、『ハトは渡航』っていう読み方もできますし」
「……ああ、なるほど」
「これを暗号にしたトリックで、ミステリを書こうと思います」
「そもそもハトハト口って言葉がないからね。掌編でも厳しそうだよ。それにハトは飛べるんだから渡航も簡単にできるでしょ」
「そうかぁ。こりゃ、一本取られましたな」
「まったくもう……」
「じゃあ、一本取られたところでそろそろ帰りますか」
「うん。そろそろ時間だしな」
「でも、ハトハト口でミステリを書くという夢は諦めませんよ」
「はいはい」
「ちゃんとピジョンを持ってがんばれば、絶対に夢はかなうはず!」
「……うんうん。面白いね」
「…………」
「ほら、豆鉄砲食らったような顔してないで、帰るよ」
「は〜い」