空墓所から
48.死神の論理
その男は、自分の職務が全うできなかったことを知り、私の十数メートル先でがっくりとうなだれた。
私は前方から駆け寄ってくる仕事仲間とつかの間の勝利を喜び合う。しかし、その顔を喜びの笑みで満たすことはしない。あくまでも真剣な顔で、駆け寄ってくる彼をただただ受け入れる。
そうしているうちに背後からも7人の同僚が駆け寄り、勝利を分かち合う。だが、彼らも若干、複雑な表情をしていることは否めない。
私と彼らは喜びを極力出さないようにしながらダグアウトへと向かう。そこには、私たちをねぎらうために待ち受けていた監督が、これまた複雑な表情でたたずんでいた。
「つらかったと思うが、ありがとう。本当によくやってくれた」
監督の第一声。その言葉を私はそっくりそのまま監督に返したくなる。そのぐらい、それぐらい、難しい試合だった。
私たちはほとんど笑顔のないままベンチ裏へと入った。一人だけ、勝利につながる快打を放った選手がインタビューに呼ばれたが、彼も言葉少なに受け答えを行い、私たちの後に続いた。
その後、球場のスタンド席でちょっとした騒ぎがあったという話をちらっと小耳に挟んだが、詳しいことはわからない。
私は家にたどり着く。扉を開けると、すかさず妻がやってくる。彼女も皆と同様、口では勝利を喜んでいるが、やはり表情はどこか浮かない。
私は、疲れているため食事は後でとるという旨を妻に言いおいて、自室にこもった。
ようやく一人になることができた私は、ついついため息をついてしまう。そして、心中で決意を固めてゆっくりとパソコンの電源を入れた。