空墓所から
ある日、舅と夫、男性ふたりの乗っている車が事故に遭い、ふたりともこの世を去ってしまったのである。
悲嘆に暮れ果てたふたりの葬儀が済み、厳しい現実が襲いかかってくる。姑に苦労してきたいわば同士であり、いろいろと骨を折ってくれた舅。その舅を介してという形ではあったが、私の主張を受け入れてくれた最愛の夫。もうふたりはこの世にいない。それなのに、憎むべき敵だけが生き残った。こんな状況でやっていけるのだろうか。デリカシーのないあの女のことだ、勝手にずかずかとこちらの家へとやってくるに違いない。足が痛いだの腰が痛いだの騒いでこき使われるに違いない。なんだったら一人になった自分の介護をしろなんていう話にもなるかもしれない。私はすっかり絶望的な心持ちになっていた。
……だが、久々に顔を合わせた姑はちょっと変わっていた。つかず離れずの距離を保ち続け、連絡なども最低限。以前のように当たりがきついこともなくなった。そして、それが変わることのないまま、あっという間に十年以上の月日が流れていた。
姑はいったいどうしてしまったのだろうか。亡き舅がここまできつく言いつけたとは考えづらい。夫も父は明らかに母の尻に敷かれていたと言っていたぐらいなのだから。彼亡き今、大人しくしている理由など何もないはずなのに。まあ、彼女にとっては夫と息子を同時に失っているのだから、よほど堪えている可能性はないでもない。だが、そうだとしても十年以上も引きずるだろうか。
ここまで考え続けて、ようやく答えらしい思考にたどり着く。
そうか。もう私たちには闘う理由がないんだ。彼女にとっての息子、私にとっての夫、あの人はもうこの世にいないのだから。
ということは、もしかしたらこの世の嫁姑問題は、夫さえ死んでくれたら解決するんじゃないだろうか。頭の中でそんな皮肉めいた結論を考えながら、たまにはこちらから姑に連絡を取ってみようかと思った。