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空墓所から

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 その夜、寝室でつらつらとこの出来事について考えていた。

 テトの名は廊下をテトテトと歩くからという理由で妻が名付けたもので、恐らくこの名にこれ以上の由来などはないと思われる。だが、古代エジプトにバステトという女神がいたはずだ。この女神は頭部がねこで、いろいろな厄災から信奉者を守ってくれるありがたい女神だったらしい。
 そんな女神に若干名前が似ているテトは、昼間ヘビからわが家を守ってくれただけでなく、私たちの見ていないところで、さまざまなものからわが家を守護してくれているのかもしれない。普段はお嬢さま然としているのも、バステトが主神だったラーの娘と考えれば納得できる。まあ、さすがにエジプトの女神さまが直々にこんな東洋の片隅まで来てくれているとは思えないので、テトは女神の使いなどではないかと思うが。

 そう考えてみると、ヘビのほうにも思い当たる節がある。インドにはサラスヴァティという女神がおり、わが国でも弁財天という名で七福神の一柱になっているほど有名だが、この女神が確かヘビを使いとしているのだ。また、そのご利益も財福を始めとして非常に多岐にわたっている。
 あのヘビは、きっと弁財天のご利益を売り込みに来たセールスマンのようなものだったのかもしれない。せめて話だけでも聞いてくれませんかとばかりにそろそろと庭壁をよじ登って入り込んだまでは良かったが、すでにうちが契約していたよその女神の使いに見つかった。そして始まった異国の女神の代理戦争のてん末は先に記したとおりだ。

 でも、どちらにしても申し訳ないが小さい子とねこがいるわが家ではヘビは飼えないだろう。妻も恐らく気味悪がると思うし。それに、あまり女神さまを否定するのは良くないが、弁財天は嫉妬深かったり、高慢だったりといううわさも聞いている。うちはこれまでどおりに古代エジプトの猫神と近しくしていくほうがいいのかもしれない。そんなことを思いつつ、眠りに就いた。


 翌朝。
 目を開くと眼前には昨日のヘビ。だが、傷だらけですでにこと切れている。その傍らにはドヤ顔でこちらを見つめているテト。
 ああ、これがねこのおみやげってやつか、私は無残なヘビの死骸に吐き気を催しつつ片付けながら、猫神との付き合いもちょっと考えものだな、と思った。


作品名:空墓所から 作家名:六色塔