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空墓所から

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 家にたどり着き、橋上で起きた出来事を反すうする。

 車が通るたびに発生するあの揺れ。あれではあの橋はもうそれほど持たなさそうだ。近い未来に崩壊してしまう可能性が高いということは、建築に関して素人の私でも容易に想像できる。

 私はその瞬間を脳裏で夢想する。今日のように信号を待っている私。そこに今日のような大きなダンプカーが大量の荷物を積んで通りがかる。それが橋に差し掛かった瞬間……。
 もろくも橋は真っ二つになって崩れ落ち、私は無力感を抱えつつその裂け目へと落ち込んでいく。バランスを崩したダンプカーが荷物をまき散らしながら私の上へと覆いかぶさり、私は下敷きになって川底へと沈んでいく……。

 そんな夢想を頭の中に展開したとき、その恐ろしさに身の毛がよだった。が、次に去来したのは、そんな目に遭ってしまいたい、そんな破滅願望のようななんともいえない思いだった。

 もちろん死ぬのは嫌だ。しかも、ダンプカーにつぶされるだなんて。でも、心の奥の奥の奥に、そうなってしまいたい、その瞬間に立ち会ってしまいたい、それで全てを終わりにしてしまいたい、そんな半ば禁忌に近い感情が渦巻いている。

 あの橋が好きだから? いや、あの橋は好きだけれど、殉じたいという気持ちではない。どちらかというと、ちょっと壊れたおもちゃやプラモデルをいっそ修復ができないくらい完璧にぶっ壊してしまいたい、というプリミティブな破壊願望のほうが近い気がする。

 いや、もっと近いものがあった。小さい頃しばしば男子に発現することがある、女の子にちょっかいをかけて気を引こうというやつ。恐らく小さい子に特有のあの行為。あれなのかもしれない。

 女子にはそういうのがあるかどうかわからないが、男子は気になる女子にくだらないちょっかいを掛けて気を引こうとすることがままある。まあ、大抵の場合は成功しないのだが。それがだんだんエスカレートしていくと、その志向はときにディスプレイの向こう。見目麗しいアイドルの方々に向かうときがある。

 他ならぬ私がそうだった。小さい頃、ぼんやりとテレビを見ていると、同じ人類とは思えないほど美しいアイドルのお姉さんたちが華やかな衣装を着て歌ったり踊ったりをしていて、それにほのかな恋心を抱いていたものだった。しかし、彼ら、彼女らも見目麗しいだけではやっていけない。ときに仕事の幅を広げるべく、バラエティなどにも進出して意外な一面を見せなければならないときがやってくる。
 昨今のアイドル事情はてんでよくわからないが、私が小さい頃はその手のバラエティで風船がよく用いられていた記憶がある。罰ゲームなどと称して、水の入った風船を割って男性アイドルをびしょぬれにさせたり、単純に割って大きな音を出すことで女性アイドルなどに悲鳴をあげさせたりしていたのだ。

 今回の橋の一件、なんとなくこのときの感情に近い、と思ってしまった。風船が割れるまでのドキドキと、橋が崩れ落ちるまでのドキドキ。ついに風船が割れて、画面の向こうの美人がうろたえるさまと、大好きな橋が無残にも橋でなくなっていくさま。整ったものがそのきれいな装いを半ば強制的に破壊されてしまう。そこにサディスティックな感情を無意識に見いだしていたのではないだろうか。

 だが、小さい頃はサディスティック一辺倒だった私が、今回の橋の件では、自分は橋上にいて橋の破壊に巻き込まれたいというふうに心境が変わっていた。マゾヒスティックな性向なのか、自殺願望なのかは分からないが、この長い月日が良くも悪くも自分を変えてしまったんだろうと思うと少々感慨深い。


 ちなみに先日、件の橋を訪れたら、工事中の立て札がかかり、橋の補強工事を施しているという旨の説明が書かれていた。無残な橋の崩落と私の川への落下は、もう少し先のことになりそうだ。


作品名:空墓所から 作家名:六色塔