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空墓所から

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81.中庸の魔女



 打ち倒す目標である闇騎士の部屋に侵入したその瞬間、私は今までともに冒険をしてきた仲間に、背後から大火球を浴びせかけた。

 部屋は一瞬のうちに業火に包まれ、シャーマンとくノ一が背中を見せたまま声も出せずに消し炭になる。それに気付いたパラディンとソードマンが、信じられないといった顔つきでこちらを振り向いた。
 生き残った二人に向けて、間髪を入れず氷撃の魔法を放つ。彼らの足元から氷の刃が天に向かって立ち上ったその直後、美男の聖騎士と美少女の剣士、2つの氷の柱ができ上がっていた。

 ここまでともに冒険をしてきた仲間を残らず殺りくした私は、闇騎士の顔すらも見ず、きびすを返して部屋を出ていく。王座に座る闇騎士も、こんな奇矯な行動を取る女にはうかつに手を出せないようで、訝しげにこちらを見つめている。
 部屋を出ようとする瞬間、玉座に座る悪の権化は私に配下になるよう勧誘をしてきた。だが、私はそれを無視して部屋を後にした。

 数日後、私は闇騎士の討伐を指示した王に謁見していた。今回の冒険の失敗を報告するために。

「闇騎士を追い詰めはしましたが、力及ばず4人がしかばねとなり、私のみが魔法で脱出し、恥ずかしながら帰って参りました」

「うむ、そうか。非常に無念だ。だが闇騎士の恐ろしさ、強さを知るそなたが生き残ったのは幸いじゃ。また、新たに勇敢な冒険者を集めて討伐に尽力してほしい」

 王はグラスを片手に、もう片手に美女の腰を抱きながら私の報告を受ける。言葉は神妙だが態度は裏腹だ。私はこちらの部屋も無言で後にした。


 さて、私がこのような理解しがたいことをしているのには、もちろん深いわけがある。といっても、私は闇騎士のスパイではないし、先ほど謁見した王やこの人類に深い恨みがあるわけでもない。ともに冒険をしてきた4人の仲間には申し訳ないが、私の考えを実現、維持するための致し方ない犠牲だと思って草葉の陰から見守っていてほしいと思う。

 唐突だが、あの闇騎士が世界を統べたらどうなるだろうか。それを想像するのは難くない。彼の配下が世界にはびこり、世の人々は大いなる危機にさらされるだろう。暴力で支配する思想が根本にあるのなら、そのような世界が作られるはずだ。
 では、闇騎士が打倒された世界。暴力で支配しようともくろむものが消え去ったとしよう。そこには果たして平和は存在するだろうか。そこに私たちの居場所はあるのだろうか。
 表向きの平和は、そこに確かに存在するかもしれない。だが、それは結局、暴力以外の何かで優劣をつける世界に他ならないのだと思う。経済的なことだったり、言論のようなものだったり、あるいはその他の何かだったり。これらは一見すると平和に見えるし、一見すると平等のようにも見える。だがこういった世界も、暴力が商才や頭の回転、口の達者なやつや知識を持つやつに成り代わっただけの世界に過ぎないのではないだろうか。
 もちろん反論はあるだろう。暴力はときとして人を傷つけ、死に至らしめる。しかし、後者は勝敗は決まれどそこまでではないはずだ、と。だが、人は貧窮や言論でも立派に傷つくし、ときとして死にも至るものだ。

 結局、のさばるやつが変わるだけに過ぎない。闇騎士と王、どちらが勝利をしようとも世界は変わらない。
 ならばどうすればいいか。どれも幅を利かせられない世界を作ればいい。闇騎士も王も存在はすれど、思うようにならない世界が一番いい。
 力、金、言葉、権威。全てが突出できない状況なら、そこに例えば感情などが入り込む余地も出てくるはず。それが例えルサンチマンだとしても、一種類の専門店よりはいろいろなものが並ぶ商店のほうがいい。

 もちろん、これにも欠点は存在する。これでも、全てのものは救えない。弱者は必ず生まれてしまう。だが、さまざまな選択肢の中で何かをつかむ可能性は高くなるはずだ。今が不幸な境遇だと思うなら、そこから何とか抜け出してほしい。
 それに、志向性を失うことで世界が硬直するという大きな欠点がある。誰も頭をもたげることのない世界は、突出した力がないゆえに大いなる進歩を妨げ、外圧に屈する可能性もあるだろう。
 もう一つ、この思想はなかなか理解されない。なぜって、ときおり私自身も気持ちが揺らぐことがあるぐらいなのだから。

 ……だが、それでも私の目の黒いうちはそのような世界でいてほしい。闇騎士の征服も滞り、王宮の議会も踊り続ける。何も進まない、そんな世界で。

 それを維持するために、再び強大な力を持つ冒険者を募ろう。闇騎士の打倒、富や名声を得ようと夢を抱く彼らを冒険の最後の最後、闇騎士の部屋に入った瞬間に葬るという作業をできる限り繰り返そう。そして、王に「一人だけ逃げ帰ってきた」と報告をし続ける。この世界を維持し続けるために。
 だが、この一連の行動も次でもう5回目になる。王も闇騎士もさすがに不審に思い始めているかもしれない。

 そろそろ跡継ぎを作っておくべきかもしれないな。そう思い直した私は、冒険者を募りながら、その中の一人に私の思想を理解できるものを加えようと思った。そやつを立派な後継者とするために。
 跡継ぎができたらそやつは16代目になる。これまでの間、よくこの状況を維持し続けられたなというちょっとした驚きとともに、私は冒険者のギルドを訪れる。数人の優秀な冒険者と一人の後継者を見定めるために。

 その後継者によって、闇騎士の部屋で今度は殺される側となるために。


作品名:空墓所から 作家名:六色塔