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空墓所から

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66.しこり



 なんだかおかしなことになってしまっている。

 あんまり大きな声では言えないが、俺は変態性欲の持ち主だ。もっとも、変態性欲と言っても掃いて捨てるほどたくさんの種類がある。その中でも俺は、ペドフィリアというとりわけ評判の悪い部類に入る人間なわけで。

 ペドフィリア━━小児性愛と日本語に直せば、これがかなり害悪な性欲であることがすぐさま理解できるだろう。俺は純真で愛くるしい子どもが好きで好きでたまらない。特に小学校低学年の女子、あの純真無垢の権化とも言える年頃の女の子を愛したいという妄想を常にしているような、自他ともに認める最低な男なのだ。

 もちろん、実際の女の子に手を出すことは犯罪だということは重々承知している。だが、性欲は人間の3大欲求の一つだというのも厳然たる事実だ。目の前にかわいくて愛らしい少女が黄色い通学帽をかぶり、ランドセルを背負って歩いていれば、やっぱりどうにかしたくなってしまうというのが人情ならぬペド情というものではないだろうか。


 その日はカラッとしたまあ良い天気で、俺も上機嫌で道を歩いていた。するとそこに、まさに俺の理想のようなかわいい女子小学生が一人で歩いている。こんな光景を目に入れてしまったら、少なくとも俺の中の論理では声の一つもかけないほうが失礼というものだ。

「ちょっとさ、お兄さんと遊んでこうよ」

ダメ元で発したその誘い文句に、彼女はなんの疑いもない目でコクリとうなづいた。

 ここから先の一部始終こそ、個人的にはていねいに描写したいところなのだが、不快に思われる方もおられるだろうから簡単にさせていただくことにする。要するに、このとき俺は公園の隅で10分ほど「お医者さんごっこ」と称して彼女の胸部を楽しんだ。神に誓うが下半身には触れていないし、自分の下半身も出していない。もちろんそれ以上のみだらな行為もしていない。

 ただ、その触りまくった胸部。そこに問題があった。

 俺が触れたその場所にはちょっとしたしこりがあった。俺はそのしこりを軽くなで回しつつ彼女に、「ここ、痛くない?」と問いかける。

「うーん。ちょっと痛いかも」

返ってきたのは、幼い少女に特有の理解をしているのかしていないのか、あいまいな返事。

「あんまり痛いようだったら、お母さんかお父さんにお話をしてみてね」

俺は少女の体を心配してそんなことを口走っていた。その後、気まずい空気が漂い始めてしまい、早々に切り上げることにする。俺は彼女にちゃんと服を着せてから、きちんとお別れをしたのだった。


 それからしばらくして。

 スマホに知らない番号から着信が入る。聞いたこともない女性の声。その声が、すぐにでも指定した病院まで来てくれとわめいている。

 取るものも取りあえず駆けつけてみると、あのときの少女がベッドに横たわっている。その傍らには電話の主と思われる女性。話を伺うと彼女は少女の母親だと名乗った。なぜ病院にいるのかはわからないが、先日の出来事が露見してしまったに違いない。確かに口止めなどはしなかった、それに、このような性欲の持ち主である以上、いつかはこうなるだろうと心の奥底では思っていた。
 だが、ペドフィリアにだって譲れないプライドがある。ここは潔くくさい飯を食うことにしよう。そんな覚悟を心の中で固めたとき、母親の口から意外な言葉が飛び出してきた。

「おかげで、病の早期発見ができました。本当にありがとうございます」

 母親が言うには、あの日、少女は家に帰ってすぐにしこりのことを母に報告したらしい。それを不安に思った母親が病院に連れていったそうだ。
 診断の結果、あのしこりは放って置くと命にも関わるような悪性の腫瘍だったらしい。母親は娘を入院させ、無事に手術を終えてホッと胸をなでおろすとともに、しこりを見つけてくれた親切な人を探すよう探偵に依頼した。その探偵は、幼い少女が大好きで実際に声をかけそうなやつをていねいに洗い出し、俺を無事に見つけ出したということらしかった。

 意外な展開にすっかり目を回している俺を前に、母親は感謝の言葉をこれでもかと繰り出してきた揚げ句、ボロボロと泣きだした。仕事を早退して病室に駆け込んできた父親も、心ばかりのお礼だと俺に分厚い封筒を押し付け、手をぎゅっと握りしめてこれからも娘をお願いします、なんてことをやりだす。当の少女もベッドの上で、俺を熱っぽく見つめている。そのまなざしは確実に俺に信頼を寄せていて、この様子なら、すぐさまお医者さんごっこ以上のこともできそうなほどだ。

 いや、確かにこんな純粋でかわいらしい少女の命が救われたのは良いことだ。それに、こんな天使のような娘に好意を持ってもらえるなんて、ペドフィリアみょうりに尽きると言っても過言ではない。

 だが、みんな何かを忘れてやしないだろうか。

 いい大人が、公園で女子小学生の服を脱がして体に触るのは、どう考えても犯罪だろ。病気が早く見つかったことについては感謝に値するかもしれないが、そのプロセスは間違いなく法に触れている。ご両親は早くそこに気付いて俺を警察に突き出すべきだし、彼女も俺をそんな目で見ていないで、いかがわしいことをされたという自覚を持ち、同じくらいの年齢の男子などに興味を持ったほうがいいんじゃないか。

 なぜだろう。とてつもなくうれしいのに一向に喜べない。

 いっそのこと、俺はみずから警察に出向いてお縄についたほうがいいかもしれない、そう思い始めていた。


作品名:空墓所から 作家名:六色塔