空墓所から
以上をまとめると、後述のエピソードを踏まえれば狐狗狸さんの言うことは当てにならないということになるし、前述のエピソードを踏まえれば狐狗狸さんそれ自体が怪しいということになる。
つまり、あんなものはでたらめだってことだ。
まあ、こんなことは私がいちいち文字を費やさずとも、井上円了という東洋大学を創った偉人が明治時代に解明してくれているのだが。
「ねぇねぇ、あおいちゃんはだれがすきなのかなー」
「ん、じゃあ、聞いてみよっか」
硬貨の動きを楽しそうに追う二人を、チューハイの缶を傾けながらほろ酔い気分で眺める。頃合いを見て、私は炒めものの残りを箸で手早くかき込んで、食器を洗いに台所へと向かった。
(でたらめではある。でも、恋愛が大好きな女子にそれを言うのは野暮な話だよなぁ)
そう。ときと場合によっては、真実や正しさなんかよりももっと重要なことがある。まあ、あまりのめり込まない程度ならいいと思うし、妻もいるからその辺は大丈夫だと信じたい。
ついついいらぬことを言いたくなる性格の私は、なるべくあの場を離れていたほうがいい。そう思い、仲間に入れない一抹の寂しさを心の中に抱えながら、洗った食器を片付けて二人に先に風呂に入ってくることを告げた。