空墓所から
その葬儀の場で聞いた話なのだが、おばあちゃんが以前からずっと飼い続けていたねこ。あのねこも、ある日突然姿を消してしまったらしい。そして結局ペットも帰ってくることはなく、おばあちゃんは誰もいない家でひとり、息を引き取ったということだった。
その話をした親族は葬儀の席で、「旦那にもねこにも逃げられちゃったんだねえ」と若干の悪意を込めて話していたが、恐らく真実は違うところにあるような気がする。ねこといえば死ぬ姿を見せない代表的な動物じゃないか。あの飼い猫(僕は数回しか見かけたことがなかったし、名前も覚えていない)も、おじいちゃんと同様、信頼し、愛しているおばあちゃんに死にざまを見られたくなかったのだ。だからねこも自らの死を悟った瞬間姿を消した、僕はそう思う。
世の中には、死ぬ時に誰かに寄り添っていてほしい生物と、孤独の中で死と向き合いたい生物がいるんだろう。どちらが正解かはわからない。というより正解などないのだと思う。でも、たまたま運悪く後者側であった一人と一匹とともに晩年を暮らすことになってしまった前者側のおばあちゃんには、多少なりとも同情の念がわいてしまう。
そんなおばあちゃんの死から数年後の今日、年数が経過しておじいちゃんも正式に死亡となった。ねこももう、寿命を考えれば恐らく生きてはいないだろう。
願わくは、ふたりと一匹に安息のあらんことを。