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クラゲとコウモリ

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 そんな彼女の胎内で泳いでいたあいりは、今まで出会った女性の中で一番自分を好きだったのは、倫太郎の彼女ではないかと思った。だから、二人には幸せになってもらいたい。彼女がどういう人なのかを知っているあいりは、それを綾香に教えなければいけないと考えていた。
 まずは、倫太郎に、彼女の素晴らしさを教えて、これから、綾香に倫太郎を諦めさせるように仕向けなければいけない。
 彼女というのは、名前を綾乃と言った。実は、綾香の腹違いの姉であった。
 父親の不倫は、綾香が生まれる前から続いていて、密かに綾乃が生まれていた。
 綾乃は自分の妹が綾香であることは知っている。最初は、
「綾香に倫太郎を譲ろう」
 とも考えたが、倫太郎の気持ちも考えずに勝手に決めることはできないと思った。
 そこで、あいりに相談し、いかに、綾香を諦めさせるかを考えた。
「倫太郎さんと綾香に、幻影を見せるようにすればいいのよ。その役は私がやるわ」
 と言った。
 これが、彼女の「クラゲ」と言われる本当の力だった。
 まわりからの力がなければ生きていくことはできないが、自分の力をまわりに与えることができるという能力を持っていた。
 これは、超能力の一種だが、本当は皆が持っている。しかし、超能力は持っていても、それをいかに活用できるかということは、一部の人間にしかできない。
 なぜなら、
「自分にはできっこない」
 と初めから決めてかかるからだった、
 それをあいりは、克服し、まわりの人に与えることができる。あいりにとっては、
「共存共栄」
 ができなければ、生きていくことができないのだ。
 そんなあいりを、綾香はすぐに許すことができた。むしろ、あいりに感謝している。失恋であっても、ほとんど傷つくことがなかったこと。そして、欲しかった姉ができたこと。姉から、与えられる癒しは、あいりによって、倫太郎に見せたような、羊水に浸かった癒しを今度はあいり本人が見せることになる、その前兆が、あの時のアルプスの箱庭で見た光景だったのだ。
 綾乃は倫太郎の子を無事に産み、そして、幸せな結婚生活に入った。
 綾香とあいりは、
「コウモリとクラゲ」
 として、つかず離れずの一番いい関係を、今後も続けていくことになるのであった……。

              (  完  )



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作品名:クラゲとコウモリ 作家名:森本晃次